潰えるべくして潰えた夢だった

もともと9人の民間人取締役、特に社外取締役たちは、そもそも「国」にあまり期待していない人たちだった。辞任にあたって各取締役が公表した文書にもそれははっきり現れている。

社外取締役だった米国の大学教授である星岳雄氏は、もともと日本の官民ファンドには否定的で、「成功するはずのない政策の一つが官民ファンド」だと切り捨てている。それでも社外取締役を引き受けたのは、「田中正明氏を中心に金融のプロとして世界的に信頼された人達を経営陣に揃えるのを見て、もしかしたら、日本の政府・経産省も、旧態依然とした産業政策から離れて、日本の成長を取り戻すための政策に真剣に取り組み始めたのか」と思ったからだという。

もしかして日本の「国」の行動が、JICによって変わるかもしれない、と他の取締役も考えたという。それを経産省が物の見事に裏切ったのだ。星教授はJICが「ゾンビの救済機関になろうとしている時に、私が社外取締役に留まる理由はありません」とまで言い切った。

もちろん、9人の民間人が、もしかしたら、と考えたことは否定しない。あるいは、国の枠組みの中でも、グローバルに戦えるファンドが作れるという期待を抱いて、官僚組織の中で挑戦しようとしたことも大に価値のあることだった。おそらく経済産業省の中にも革新的な人物がいて、新生JICに民間の力を取り込む夢を抱いたに違いない。だが、残念ながら、世界で戦える組織を、国主導で作るという発想自体に無理があったのではないか。やはり潰えるべくして潰えた夢だったように思う。