最大で1億2500万円は「高額」ではない
成功報酬を含めて最大で年1億2500万円前後という報酬も決して「高額」とは言えない。しかも長期連動の成果報酬が手に入るとしても、成果が上がった後なので数年後の話だ。年額の固定給は社長が1550万円、副社長が1525万円、専務が1500万円。これに短期業績連動報酬として、年額4000万円を上限に四半期ごとの業績に応じて支払うことになっていた。長期業績連動報酬は最大7000万円を支払うというものだった。
短期的には最大で年間5500万円程度の支払いなので、日本企業の社長に毛が生えた程度。金融界の常識からすれば破格に低い報酬と言っていい。業績連動の報酬が得られるのは、ファンドが膨大な利益を上げた場合に限られるので、国にとっても悪くない条件だったのだ。
民間取締役9人が辞任を表明した後に出た報道でも明らかになったように、実はJICの前身であるINCJでも業績連動の高額報酬が約束されている。JICの傘下に置かれたINCJファンドは2025年に解散する予定だが、その段階での累積利益に応じて、取締役に数億円の報酬が支払われる見込みだ。つまり、経産省がINCJには高額報酬を認めておきながら、JICにはダメ出しをしたわけだ。
経産省幹部が手のひらを返した本当の理由
世耕弘成・経産大臣は会見で、「旧機構は、旧機構自身が投資判断していた。JICは(傘下の)各ファンドを監督する立場。その報酬として業績連動が必要かどうか、あってもかなり抑制的であるべきだ」とその理由を説明していた。子ファンドを形成してそこに運用させるのもJICの取締役たちの知見と判断によるわけで、そこには業績連動はいらない、という説明は何とも苦しい。
経産省の幹部が手のひら返しをした本当の理由は、おそらく、自分たち官僚のコントロールが効かなくなることを恐れたのだろう。出資者は国なので、取締役をクビにするなどガバナンスを効かせることは可能だが、いわゆる以心伝心で官僚機構の思う通りに動いてくれる「第二のポケット」にならないことが分かった段階で、ダメ出しに動いたに違いない。
前身のINCJは、危機に直面した日本企業に出資することで、良く言えば産業政策の一翼を担った。投資するかどうかの判断は、リターンが期待されるかどうかよりも、現実には、日本として必要な産業かどうか、だった。しかもそれを決めるのは経産官僚だったのだ。
これにはゾンビ企業を生むとして批判的な声もあったが、官僚たちにとっては、それこそが国益にかなう行動だった。報酬も、官僚の天下りや現役出向で自分たちにメリットがあるうちは文句を言わなかったのだ。だが、新生JICは本気で専門家集団になり、官僚が割って入る余地はなくなる。だから「高額報酬はけしからん」となったのだろう。
官僚機構にとって「国」とは自分たち自身のことで、決して「国民」のことではない。官僚が思うようにできず、自分たちに利益も来ない組織は、「国」のためにならない、と考えても不思議ではない。