コンビニに置かれる電卓はなぜ1種類だけなのか

役に立つものが淘汰され、意味のあるものが残っていく――。こうした状況は自動車産業に限らず、あらゆる分野に起きてくるでしょう。「役に立つ」を追求するビジネスが人工知能に代替されやすいことは想像に難くありませんが、人工知能の登場を待つまでもなく、ソリューションは1つの商品に収斂していく傾向を持っています。

コンビニの棚を見てみると、電卓など、特定のソリューションを役割とする商品は1種類しか置かれていません。こうした商品は勝者総取りになってしまうのです。ところがタバコを見てみるとレジの奥に100種類くらい置かれていますね。味や香り、パッケージなどにより作られるタバコごとの特徴が、消費者固有の嗜好につながっていることから、コンビニであれだけの棚を取ることができているわけです。

最近は、「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)があらゆる市場を支配する」といった話が聞かれますが、これはいささか乱暴な議論と私は思っています。たしかに電卓のようなソリューションはGAFAに淘汰されるかもしれませんが、センスメイキングを活かし、固有の意味を追求するビジネスは、グローバルニッチとして今後も生き残っていくでしょう。

コンサルタントの山口周さん(撮影=山本祐之)

現代の日本は、決定的に重要な局面に来ています。これまでのように目指すべき世界が“欧米”にあり、「より早く、より安く」を追求すれば勝てていた時代は終わりました。変化が激しい現代においては、未来像を欧米に求めることができませんから、自ら作りあげていく必要があります。これは明治維新以降初めてのことでしょう。

日本は社会構造が長らく安定していました。そのため、未来の世の中をイメージすることが不得手です。この点においては、祖先が国家を作りあげてきたという自負を持つアメリカとは真逆の特性を持っていると言えるでしょう。そういった意味でも、歴史や哲学など人文科学に根ざしたセンスメイキングに基づく思考は、日本でこそ必要とされるものと考えます。

山口 周(やまぐち・しゅう)
コンサルタント
1970年生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)などがある。
(構成=小林義崇 撮影=山本祐之 写真=iStock.com)
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