「役に立つ」の日本車、「意味がある」のランボルギーニ

クリスチャン・マスビアウ『センスメイキング』(プレジデント社)

一方、ベンツやBMW、アウディなどのドイツ車は、役に立つものでありながら、同時に意味も兼ね備えています。機能では日本車も負けていませんから、あえて価格の高いドイツ車を選んでいる人たちは、何かしらの意味をそこに置いているはずです。「役に立つ」と「意味がある」の違いを理解するために、自動車産業を当てはめてみましょう。日本車が目指してきたのは、明らかに「役に立つ」領域です。移動するために十分な機能を備え、燃費も優れている。ところが、「意味があるか」と問われると、首をかしげざるを得ません。そのため、どうしても価格競争になりがちです。

「意味がある」を極端に追求したものは、フェラーリやランボルギーニに代表される高級車でしょう。「役に立つ」の面から考えると、積載量も小さく燃費も悪いですから、一般的な日本車より劣っています。500馬力の加速があったところで、公道でそんなスピードを出すことはできませんから、いわば “役に立たない”車なのです。

ところが、日本車、ドイツ車、高級車の価格を並べてみると、圧倒的に安いのは日本車であり、多くは100万円から300万円の間に収まります。ドイツ車は500万円から1000万円程度。そしてランボルギーニは3000万円を超えるレベルです。こうした事実を考えると、やはり「意味がある」ことに現代の人は高い価値を置いていることが分かるのではないでしょうか。

今後、カーシェアリングや自動運転などが安価で利用できるようになると、日本車や、ルノー、フィアットのような大衆車メーカーは淘汰される可能性が高いと考えています。その一方でドイツ車や高級車は一定の愛好家によって市場に残るでしょう。

自動車産業のこうした先行きは、投資家からの評価からも見えてきます。PBR(株価純資産倍率)という指標をご存じでしょうか。PBRは1株あたり純資産の何倍の値段がつけられているかを示す投資尺度であり、ある意味で会社への期待度を示すものです。このPBRが、トヨタは約1.0であり、日産に至っては0.7を下回っています。これは、「日本の自動車メーカーは未来に期待されていない」という実態の現れなのです。