デジタル世代のエンディングノート

そもそも、本人が事前に家族にパソコンやスマホのパスワード、取引のあるオンライン口座などの情報を教えておけば、万一のときにもスムーズにことが進むはずだ。実際、日本デジタル終活協会では、『デジタル世代の引き継ぎノート』と題したエンディングノートを希望者に販売している。手持ちのパソコンやスマホのログイン情報、利用しているオンライン口座やSNSの一覧、自分の死後にそれらをどうしてほしいか、などがひととおり書き込めるようになっており、「最近、ホームページからの問い合わせが増えています」(伊勢田弁護士)。

もっとも、そうした情報を家族に渡すことに抵抗を感じる向きも少なくない。パソコンやスマホの中には、家族といえども見せたくないものがしばしばぎっしり詰まっているし、家族に内緒の投資をしているケースもある。そこにアクセスできるパスワード類は、当人にとっては教えたくない情報、家族にとっては聞き出しづらい情報、ということになってしまう。

「協会の『デジタル終活セミナー』でも前述のエンディングノートを書いてもらうのですが、受講生の方から『家族に見せたくないから書きにくい』と言われたことがあります。それでは意味がないんですが」と、伊勢田弁護士は苦笑する。

そこで活躍するのが冒頭のデジタルデータソリューションのような会社だが、こうした専門業者への依頼は、故人が隠したがっていた内容も含む「すべて」が、遺族に丸見えになることを意味する。「お金に関する情報を調べてほしいという依頼を受けて作業したところ、亡くなられた方の女性関係の情報がたくさん出てきてしまったこともあります。本人が消去したと思っている情報も、当社の技術では全部復元できてしまいますので……」(森氏)。

▼実際にあったパスワード解読・データ復元依頼の例
【CASE 1】家族に内緒で仮想通貨投資を?
夫が家族に内緒で仮想通貨投資をしていたらしいが、突然死亡してしまった。そのまま放置していたが、値上がりしているようなので相続したい。パソコンやスマートフォンを調べてほしい。
【CASE 2】几帳面だったから台帳があるはず
父の資産を相続するため、ロックのかかったパソコンからデータの復元を希望。几帳面な性格だったので、資産管理台帳を作っているはず。ネット証券、ネットバンキングのログイン情報も把握したい。
【CASE 3】隠し資産があるのではないか疑惑
経営者だった父が急死。死後、税理士との会話の中で、家族が知らない会社が登記されていたことが判明。隠し資産があるのではとの疑念があり、遺品のパソコンを解析してほしい。
【CASE 4】浮気相手とのLINEを確認したい
亡夫のスマートフォンのLINEメッセージの内容を、既読をつけずに確認したい。亡夫は浮気相手に資産運用を任せており、その浮気相手が税理士と結託して、資産を着服している可能性がある。