現在、日本国内のガソリンは1リットル約130円(10年9月現在。以下同)。同じく牛乳が約200円。首都圏で調べたところ、ペットボトル水は500ミリリットル120~180円程度。今や日本の「水」は、ガソリンや牛乳より高価な商品としてスーパーやコンビニに平然と並べられている。
しかも、ミネラルを含む自然の地下水「ナチュラル・ミネラル・ウオーター」もミネラルを人工的に注入した「ミネラル・ウオーター」もミネラルが含まれない自然水「ナチュラル・ウオーター」も、ただの水道水と変わらない「ボトルド・ウオーター」とほぼ同じ価格だ。
家庭に送られる水道水も有料だが、それは1リットルあたり0.1円程度で、あくまでも“公共料金”の範囲内。例えば、150円の500ミリリットルペットボトル水を2本(1リットル)買えば300円。中身が家庭用の水道水とほとんど同じペットボトルが水道水の実に3000倍で販売され、消費者はそれを何の疑問も感じずに買い続けているのである。水の豊かな日本では、つい最近までこのような価格で水を買うという文化はなかった。
一方、千葉市と川崎市では、下水を高度処理してオーストラリア向けに輸出する実験を今秋にも始める予定だ。実現すれば、日本は資源の輸出国になる。
右手で高価なペットボトル水を飲み、左手で自国の水を輸出する。無自覚で野放図な現代ニッポン人の水がこうして商品化されていくのは、いずれ諸外国の大資本に、国内のすべての水を牛耳られるかもしれないというリスクの発生をも意味する。
大手メディアが喧伝する「水狙いの山林買収」が仮に事実だとすれば、その背景を推測することはそれほど難しくはない。地球の砂漠化や温暖化で、世界は今、危機的な水不足に陥っているからだ。そのため、水利権の獲得競争はますます熾烈になってきた。
それに伴いウオータービジネスも超巨大化しつつある。欧米の水メジャーは世界的な展開で驚くべき売り上げを弾き出している。国境間の水利権獲得競争は常に諍いさかいを伴い、いつ戦争になってもおかしくない。
そうした動きのまさしくど真ん中に、圧倒的な水不足に喘ぎながら急成長する中国の姿がある。その膨大な資本が国外を侵食し始めたからこそ、それに脅え、萎縮する日本の姿がある。
すると日本は、これまで考えてもみなかった「水の防衛」の必要に迫られることになる。
例えば、中国で禁止されている「外国資本の土地取得」は日本では自由だ。現行の森林法では、民有林所有者が自由に誰にでも土地を売却できる。同じく国土利用計画法では、1ヘクタール未満の土地売買であれば届け出は不要だ。国土の売買は公開されず、そのために権力監視を担うべきマスメディアは右往左往している。そして、そういう状況の中に、山林が荒廃する一方で潤沢な水資源に恵まれた日本の国土が横たわっているのだ。