自民党で派閥を超えて禅譲されたケースは1度もない
野田氏は前回の総裁選に続く2度目の出馬断念で、今回は自身が関係するスキャンダルが原因で20人の推薦人すら集められなかった。岸田氏は安倍政権で4年以上も外務大臣を担当して、ポスト安倍レースの有力候補に浮上した。自らの希望で党三役の政調会長に就いたのは次期総裁選を睨んでのことと言われてきたが、結局は出馬を見送り、安倍支持を表明した。
自民党きっての名門派閥である宏池会(岸田派47人)の会長なのだから20人の推薦人を集めるのはわけない。しかし、岸田氏は立たなかった。兵を挙げるというのは勇気が要ることだ。負ければ推薦人や派閥の仲間が冷や飯を食うことになりかねない。もし石破氏の得票を下回ればポスト安倍は一気に遠のいて、世代交代を迫られる可能性もある。
それならば逆らわずに勝ち馬に乗って禅譲に期待する腹づもりだったのかもしれないが、そんな甘っちょろい考え方で総理総裁の椅子に座れるわけがない。ときには負けを覚悟してでも仲間を集めて旗を掲げなければならない。岸田氏にとって今回の総裁選がそれだったと思う。岸田氏は安倍首相と同期当選で関係は良好だが、禅譲されるようなポジションではない。そもそも自民党で派閥を超えて禅譲されたケースは1度もない。権力はやはり奪うものなのだ。
前外務大臣の岸田氏とは対照的にここへきて存在感を高めているのが現外相の河野太郎氏で、今後のポスト安倍レースは小泉進次郎氏と河野氏を中心に動くと見る。
6年間で繰り出されたスローガンは数知れず
「戦後日本外交の総決算を行いながら、平和で安定した日本を確固たるものとしていく。さらには、いよいよ憲法改正に取り組んでいきたいと考えている」
3選を果たした安倍首相はこう語って憲法改正に強い意欲を示した。アベノミクスの「三本の矢」に始まり、「新三本の矢」「女性活躍」「地方創生」「一億総活躍社会」「働き方改革」「人づくり革命」など第2次安倍政権の6年間で繰り出されたスローガンは数知れず。しかし実現したものは何1つない。幼少のみぎりから安倍首相が本当にやりたかったのは「憲法改正」であり、他は一過性の標語にすぎないのだ。
では安倍政治の本丸、総決算とも言える「憲法改正」は、あと3年の任期中になしうるのか。私は上手くいかないと思っている。