どう読むべきか、厚労部会長就任

メディアを大いに賑わせた小泉進次郎議員の人事は自民党の厚生労働部会長に落ち着いた。本人の強い希望があったという。これまで進次郎議員は、当選二回で復興大臣政務官、当選三回で農林部会長、筆頭副幹事長、そして当選四回で厚労部会長となった。専門性を強く持つというよりは、日本社会全体を見渡せる政治家になろうと考えた末の希望だったのだろう。さまざまな分野を経験することは、ウイングが広がるというメリットもあるが、専門分野を持たないデメリットもある。

自民党の衆院議員の一般的なキャリアパスは、当選二回で政務官、三回で党の政調部会長、四回で副大臣や常任委員長、五回を超えると閣僚候補といった形だ。例えば、農水大臣政務官、農林部会長、農水副大臣、国会の農林水産委員長という経歴を積むと、永田町(国会議員)や霞が関(中央省庁)では「あの人は農水族」と認められる。

「族議員」は、マスコミでは政治と官僚の癒着の象徴だとか、規制緩和の敵のように批判されることも多いが、各分野の政策のスペシャリストとして、なくてはならない存在だ。官僚に匹敵する知識と高い政策立案能力、関連業界での幅広い人脈を兼ね備えた族議員がいるからこそ、国民の声を政治に生かすことができる。

そして、20年、30年先の日本にとって大事なことであっても、国民には不人気な政策を実現したい場合、官僚が頼りにするのが族議員なのである。官邸機能がどんどん強化されていく現状で、意思決定と現場の距離が遠くなってしまっている懸念があるが、そんな現場の声を届けられるのはスペシャリストとも呼べるぐらいの政策通となった国会議員だけなのだ。特定の分野に、ドカッと腰を下ろすことで、トップリーダーとして必要な能力を身につけることができるはずだ。

進次郎氏の父、小泉純一郎元首相の場合は、大蔵(現・財務)政務次官から財政部会長を経て衆院大蔵常任委員長へと進んだ。厚生(現・厚労)大臣を三期務めたことや、郵政民営化があまりにも有名で、「大蔵」のイメージは薄いかもしれないが、バリバリの大蔵族である。大蔵族議員として予算、税制などへの知識を深め、与野党の折衝も多く経験していたことが、他の分野で閣僚になっても、総理大臣になっても、生きていたと思う。逆に言えば、純一郎元首相が大蔵族議員だったから、郵政民営化も年金改革も実現したのだ。

私は、政治家は得意分野を一つ持つべきだと考えていたので、このまま農林畑でキャリアを積むのも大事なことだと考えていた。

かつての農林族は日本国内、それも地方の農家向けの政策に終始するイメージだったが、最近は活動範囲が広がっている。TPPやEPAなどで農産物が焦点となることも多いうえに、捕鯨に代表される水産関係の交渉も増えているので農水族議員には外交センスも必要だ。消費増税の際に導入される軽減税率の対象も農産物が多く含まれるから、税制にも精通していなければならない。生産者と消費者の双方と接する機会も多く、地方と都市部の両方の有権者の支持を得られる。政治家が選挙になると必ず約束する「地方創生」も、その内実を見るとほとんどが農水省の管轄である。いまや農水族議員は花形なのだ。農水分野だけでは、日本全体を見ることができないわけでは決してない。

今回、進次郎議員は、農水の常任委員長を希望したらよかったのかもしれない。あまり注目されていないが、国会の常任委員長のポストは、実務派閣僚になるための一つのキャリアパスである。まず、政務官として与党と役所のパイプ役となり、役所内での人脈を構築する。次に与党の部会長として与党と支持者の多様な意見をまとめあげる経験をしたうえで、最後に常任委員長として野党も納得させて法案を成立させるという手順を学ぶ。「とにかく反対」という野党勢力を抑えて法案や予算を実現して初めて一人前の族議員とみられる。

だから、常任委員長の経験は、大臣への登竜門とみられている。今回の内閣改造で内閣府の女性活躍担当大臣に就任した片山さつき氏も、参議院の外交防衛委員長を務めている。専門分野を持たない議員は、常任委員長への道のりが遠のき、結果として大臣就任も遅れてしまう。一方で、常任委員長が無事務まれば、どこの役所の大臣も務められるだろう。こういう一般的なキャリアパスを無視して大臣に抜擢されるケースもあるが、話題づくりだけが目的で官僚に相手にされず、仕事もできずに任期を終えるしかない。