また「大人が好きそうなことはやめよう」と決めた。例えばターゲットの女児がとにかく楽しく見られるのであれば、あえて水着を出さなくてもすんでしまう。夏休みっぽい雰囲気であればいいじゃないか、と考えたのだ。さらにミニスカートのコスチュームで戦えば、下着が見えてしまうのが普通だ。だが、そうならないようにレギンスを着用させ、絶対に見えないように配慮していたという。このような取り組みが奏功し、俗に美少女オタクといわれる人種に溺愛されることはなかったそうだ。これは美少女戦士セーラームーンとの大きな相違点である。
さらに鷲尾氏が作品づくりの際に常に大事にしていることがある。それは登場人物に感情のリアリティを持たせることである。プリキュア・シリーズの場合、メーン・ターゲットは3歳から6歳であり、しばしば親も一緒に観賞している。つまり大人も見るわけで、「ここまでやられたら怒るだろう」とか、「ここだったら泣くよね」といった感情の流れの自然さが求められる。それゆえ鷲尾氏は登場人物の感情の流れの必然性、リアルさを常に念頭において作品づくりを行った。手抜きのない本物志向の追求といえよう。
売り上げ半減、打ち切りの危機をコラボで乗り切る
今、プリキュア・シリーズは開始7年目を迎え、女児向けTVアニメ放映回数としては最高記録更新の只中にある。また関連玩具を販売する株式会社バンダイは2009年度におよそ110億円のキャラクター売り上げを記録している。だがこれまで平坦な成長軌道を描いてきたわけではない。存続の危機も経験しているのだ。
3年目の「ふたりはプリキュアSplash Star」では、登場人物をフルモデルチェンジした。理由は、コンテンツとグッズ販売の問題である。シリーズの年数がたてばたつほど話の中身が複雑にならざるをえなくなり、最初からそのキャラクターを知らないニューカマーが入ってこれなくなってしまう。またキャラクターが同じままだと、番組自体の人気はあったとしてもスポンサーの商品がリニューアルできずグッズ販売は、じり貧になる。