――さきほどは工場を案内していただき、ありがとうございました。

「いや、暑くてすみませんでした。安全のためにヘルメットなど着用していただくのですが、暑くてお客さんに不評でね(笑)」

――工場を巡回するとき石井さんは何を見ているんですか?

「機械設備については各担当の部長がいるので、設備よりも人を見るようにしています。『今日もがんばっているね。ご苦労さん。ありがとう』という気持ちでね。何か指摘したいことがあっても、部長を介して伝えるように気をつけてますよ。現場の面白さは担当部長のほうが味わえるでしょうね。私はとりまとめ役と安全面などの責任を取る役回りですから。と、カッコよく言ってしまいましたが、ビール醸造設備の現場経験が長いので、どうしても設備に注目してしまうんです。好きなんですよ。工場長向けの勉強会などでほかの工場を見学するときも、『このバルブは何だ?』と見つめてしまうことがあります。勉強会の趣旨とは全然関係ないのに(笑)」


横浜工場では、「一番搾り」など大量生産する商品がつくられている。
――リーダーには人への関心だけでなく、技術への自信も必要だと思います。尊敬できない人から「がんばっているね」と言われても、「おまえに言われたくないよ」と思うだけですから(笑)。ただ、石井さんもビールづくりのすべてのプロセスにおいて専門家ではありませんよね。どうやってリーダーシップを確保しているんですか?

「確かに私は醸造だけで20年間を過ごしてきました。いわゆる『泥くさ系』のビール醸造屋ですよ。例えば研究開発などは弱くて、大学の先生などの人脈も少ないんです。だったら、ほかの人に補完してもらうしかありません。

私が工場長になった今年3月から、全体会議の前に部長レベルだけを集めた『朝会』を始めました。少人数だから込み入った話でも教え合うことができるんです。それぞれがビールづくりの経験を重ねてきているメンバーですから、知恵を出し合ってトラブル解決などをしています。工場長だからといって『俺が一番頭がいい』なんて思ったことはありませんよ(笑)」