私は経済・金銭教育の目標は、「たかがお金、されどお金」と言えるようになることだと思っています。でも、学ぶ順番は、この文句と逆であるべきです。お金が人生の目的ではない、なんてのは当たり前のことです。だからこそ、現代社会におけるお金の重要性を理解したうえで、「でも、それはしょせん、お金でしかない」と冷静に言い切れる。そんな実践的な知恵を身につけてから、人は「大人の世界」に参加したほうがいい。

金銭忌避という「洗脳」をどう解くか

「洗脳」とは、ある価値観を所与のものとして頭に刷り込むことです。金銭忌避は日本社会全体に組み込まれている古い価値観ですから、ひっくり返すのは簡単ではない。

娘に「転ばぬ先の杖」を与えようと私が選んだのが小説という手法でした。実体験のように「目からウロコが落ちる」ようなインパクトと、経済に興味のない読者=わが娘に腹落ちする読書体験をもたらすには、物語のもつ力、読者に共感をもたせる力が助けになると思ったからです。『おカネの教室』は多くの読者から「初めて経済の仕組みがすっきり分かった」という感想をいただいています。「そろばん勘定クラブ」の一員になる「体験型学習」の効果だと思います。

一方で、金融リテラシーの高い読者からは、「大人があらためて読む内容ではない」という感想もいただいています。でも、そうした反応は、10人中1人いるかいないかくらいです。それほど、金銭忌避の洗脳と「経済はめんどくさい」というバイアスは強い。日本社会が数百年がかりで築いてきた洗脳システムは、かなりの強敵なのです。

物語の力と並んで、根を張った強敵と戦うのに有効な武器は「肌感覚」です。亡くなったコラムニストの山本夏彦さん流に言えば、「財布の中の千円札から天下国家を語る」スタイルです。