長女「母の介護を仕事と考えることはできないでしょうか?」

ただしシミュレーションでは、あくまで統計に基づいた数値を使います。そのため、多くの人の平均的な状況が反映されます。しかし、実際は個々のご家庭で状況は異なるわけです。親孝行のつもりで介護を引き受けても、やがて長女に無理がかかるのではないかと心配しました。私はこう言いました。

「これはあくまで平均費用を基にした計算上のことです。介護の費用は終わってみてはじめてわかるもので、自宅で介護するほうが高くつく場合もあります。介護の程度が重くなってから、介護疲れで施設を探すという人も少なくありません」

これに対し、長女はポツリと言いました。

「早く就職しなきゃっていうプレッシャーのほうが苦しいんです。母の介護を仕事と考えることはできないでしょうか?」

言われてみれば、確かにそうです。自宅での介護には給料がありません。しかし、自宅で介護をすることで支出を抑えることができれば、収入を得るのと同じ効果があります。必ずしも、就職していなければ仕事をしていない、というわけではありません。

母親は、長女が介護をしてくれるという気持ちはうれしい一方、本音では就職してもらいたいと考えているようでした。私は、母親の介護状態が重くなったときに長女が耐えられるかが心配で、その場は「慌てずに考えてみましょう」ということでおさめました。

娘はヘルパー研修へ「人と話をし、明るくなってきました」

後日、母親に様子を聞くことができました。

「介護の技術を身につけると言って、娘はヘルパーの研修に行っています。毎日出掛けて、周りの人と話をすることで、明るくなってきたようです。介護は求人が多いっていうから、このまま就職しないかと、私は思っているんですよ。娘が就職したら? その時は、私は老人ホームに入りますよ。娘に収入があれば、大丈夫ですよね」

長女は、研修で得た技術で母親の介護をするのか、就職するのか、それはまだわかりません。しかし、少なくともなかなか就職できずに引きこもり気味であったのが、前向きな気持ちになってきたのは確かなようです。

(写真=iStock.com)
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