課題は「一本足打法」からの脱皮

とはいえ、売上高の約半分を占める「千寿せんべい一本足打法」では、企業の先行きが不透明だ。業績好調なうちに、新たな成長の種をまき、育てる必要があるだろう。

実は、鼓月は洋菓子事業も手がけている。「洋菓子の材料には、和菓子で取り入れられそうなものも多い。それを究めるには洋菓子をきちんとやろう」との思いで進出した。「京都洋菓子工房KINEEL(キニール)」という実店舗も京都市内にある。店名は「お気に入り」からとった。

京都市役所の裏通りにある「京都洋菓子工房KINEEL」(画像提供=鼓月)

2017年12月には、ベルギーのチョコレート・ペストリー店「マレーン クーチャンス」(店名はオーナーシェフの氏名から)と提携し、今年のバレンタイン商戦から「ショコラアソート」(4個入り=1728円~18個入り=7776円)や「ボンボンアソート」(6個入り=2592円)の展開を始めた。

チョコは和菓子の素材には向かない

「洋菓子を探究するうちに、やはりチョコレートがないな、と。そんな時期に提携の話があり、バレンタイン商戦なら2週間だし、和菓子の閑散期でもあるので進出しました。ただ、チョコは和菓子の素材には向かない。いろいろ試しましたが、風味の存在が強すぎるのです」

新たな種はまいたが、順調に成長するかはこれからだ。「千寿せんべい」の庶民系に比べて、バレンタイン商戦とはいえ、チョコレートの価格が少し高いのも気になる。「後発市場に参入して成功」というDNAはあるが、「高根の花」で成功した前例はないからだ。

もちろん前例踏襲では、企業としての拡大はできない。洋菓子事業では、消費者心理と向き合いながら、商品の“さじ加減”を磨いていくのだろう。それが和菓子事業にも応用できれば、“ポスト千寿せんべい”も見えてくるはずだ。

高井尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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