アフリカではサバはシチューのように煮込み料理に
闇雲に獲れるだけ獲る漁業から、単価の高い大きなサイズを中心に、決められた量を獲る漁業へ。資源の持続的利用を図ることは極めて正しい選択なのだが、困ったのはアフリカ諸国である。欧州で獲れた大きくて立派なサバは、高くてとても手が出せなくなってしまったのだ。
「そこでスポットライトが当たったのが日本のサバです。漁業管理が遅れていると言われる日本は小さなサイズのサバも漁獲しています。漁獲量は50万トンと重量は安定していますが、小さいサイズのサバも相当数含まれています」(原さん)
日本の小さいサバなら安いから買えると、銚子で水揚げされたサバは冷凍され、船便でアフリカの国々へと送られる。
「西アフリカのナイジェリアやガーナの港町で荷揚げされたサバは、そこからまたマリやブルキナファソといった海のないアフリカ大陸内陸部へトラックで運ばれています。食べ方は焼いたり、燻製にしたりといろいろですが、シチューのような煮込み料理にすることもあります(原さん)
千葉県・銚子港→西アフリカ→アフリカ内陸部。極東の日本から、アフリカ大陸へ。船とトラックでリレーする形でのグローバルなサバ街道ができつつあるのだ。
なぜ、日本は小さなサバも獲るのか
それにしても、乱獲を指摘されることの多い日本のまき網漁で漁獲された小さいサバが、貧しいアフリカの人たちの貴重なタンパク源になっているのだから、なんとも皮肉な話である。
なぜ日本は小さなサバも獲るのかと疑問に思う人も多いはずだ。主な理由は2つある。
ひとつ目は大きなサバを獲りたくても、そもそも大きいサイズが少ないのだ。中央水産研究所の話では、サバは3歳魚で全長35センチ、520グラムくらいまで成長していいはずなのに、最近は平均で29センチ、270グラムしかない。小型で痩せているサバが多いのだ。
水産の世界では、資源が増えると1匹あたりの餌の量が減ることから栄養が不足し小型化する「密度効果」と呼ばれる現象があることが知られている。実際、豊漁だった1970年代もサバは小型化している。
しかし、近年資源量が回復傾向にあるといっても70年代の半分のレベルなのに小型化するものなのか。ここらあたりの原因は、よくわかっていないそうだ。
小さなサバを獲るもうひとつの理由が、食用以外の需要である。
鮮魚市場に流通するサバは500グラム以上というのが一つの目安。それよりも小さなサイズは、塩サバや干物、缶詰などの食用加工品となる。これら食用に利用されるのが約7割。残りの3割は養殖・漁業用の飼料、つまり魚の餌として利用されている。
従来、養殖用飼料は南米ペルー産のアンチョベータ(カタクチイワシの仲間)が多く用いられてきたが、ペルー政府は2009年から資源保護のために漁獲規制を強化。品薄で国際価格が高騰したため、養殖飼料として小サイズの国産サバのニーズが根強くあるのだ。
つまり、日本は近海で獲れた小さなサバをアフリカへ輸出し、大きなサバをノルウェーから輸入しているというのが現状。というわけで、私たちが食べているサバの5割はノルウェー産のサバなのだ。ちなみに、ノルウェー国内ではサバは消費されず、漁獲されたほとんどが、主に日本や韓国に輸出されている。