天明元年創業、京都で約230年の歴史を誇る、鯖寿司屋「いづう」の若社長に、京都老舗ならではのコミュニケーション術を伺ってみた。

老舗は得意先を相手に左団扇の殿様商売か?

「京都」で「老舗」の寿司屋と聞くと、どのようなイメージをもたれるでしょうか。

いづう 代表取締役8代目社長 佐々木勝悟氏

変わらぬ伝統の味で寿司を作り続け、お得意様を相手に左団扇の殿様商売の日々――。そう想像される方も多いのではないでしょうか。

実際に、長くお付き合いのある方からも、「おたくの所は同じ鯖寿司を作っているだけやから楽でええなぁ」と冗談を言われることがあります。

そうしたイメージを例えるならば、私たちは川の上を優雅に泳ぐ水鳥でしょうか。しかし、実際の水鳥は、優雅なイメージとは裏腹に、水面下では激しくバタ足を繰り返し、川の流れに負けないようもがき続けているのです。

それと同じく、私たちも「時代の流行」という川の流れを見極めながら、230年続く「老舗の伝統」を絶えず守り続けてきています。その秘訣は「聞くこと」にあると私は考えています。

「イノベーション」が求められる昨今において、「変わらない」ことは、悪いことと見られることもあるでしょう。しかし、「変わらない」ことは、決して楽なことではないのです。

例えば、「いづう」の鯖姿寿司のレシピは、鯖は日本近海産、米は滋賀県産のブレンド米、寿司に巻く昆布は北海道産というように、すべてが計算されて決まっており、代えがききません。

ところが、近年、漁獲方法の影響などで、取れる鯖の漁獲高は減少、米の農家さんや昆布を採る海女さんなどの人手不足も深刻な問題となっています。そのため、私は材料の供給が途切れやしないかと、日々ひやひやしながら、生産者の方や問屋さんを回るため東奔西走しております。

一方で、材料は変えないながらも、「いづう」の鯖寿司の味は常に「最新」のものを追い求めています。