労働者の移動・転職を阻む日本的慣行

また、日本で平均賃金の上昇を阻んでいるのは、わが国の労働市場では人手不足感が低い企業や職種から人手不足感の高い企業や職種に人材が移動するような労働者の流動性が乏しいことも一因と推察される。

実際、厚労省「労働経済動向調査」の職種別過不足DIを見ると、管理や事務以外の職種で不足感が強いことがわかる(図6)。

特に、労働市場の流動化を阻んでいる背景には、同じ会社で長く働くほど賃金や退職金等の面で恩恵を受けやすくなる日本的雇用慣行があると考えられる。

また、特に就職氷河期世代では非正規で雇われた労働者も多い。そして、こうした非正規化が職場内訓練(OJT)の機会を減らし、若手で経験し、身につけるべきスキルを身につけられなかったことで生産性低下を招き、結果として賃金を上がりにくくしている可能性もあろう。また、労使協調のもと、苦境でも賃下げしないことが、逆に賃上げを抑制してしまう日本企業独特の慣行もある。

したがって、職業訓練や支援金等を通じた転職支援の充実は、労働市場の流動化を高める経済対策としても有効である。また、労働市場の流動化を妨げている賃金や退職金制度における年功序列体系の改革を進めるためにも、正社員の解雇規制緩和も必要となってこよう。さらに、賃金を柔軟に変動させる仕組みの導入や、経営戦略上必要な人材育成に企業が取り組みやすくなる環境を整備することも求められる。

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