出る杭がないなら、出る杭にする

――AI、IoT時代に対応する人材をどうお考えですか?

今期はAI、IoTの技術者の育成を目的に、通常の新卒採用数に加えて理系学生を100人多く採用しました。大阪大学との提携によって当社のテクノロジー・イノベーションセンター内に開講した『ダイキン情報技術大学』で2年かけて育てていく予定です。

現在、ダイキン本社にAI、IoTの技術を有する人は1%しかいません。人数にして100人程度。これを20年までに1000人体制に持っていきたいと考えています。

空調業界におけるAI、IoT技術の活用は、これから。どういったところに生かせるのか、どんなゲームチェンジャーが現れるのか、異業種への参入はありうるのか。世界の空調メーカーのどこも、まだ手探りの状況です。だからこそ、私たちにとっては絶好のチャンスなのです。

ここで育った技術者が、ダイキン独自の技術や、膨大なデータを使って、新たな事業を提案する強力なスタッフになりうると考えています。

――AI、IoTの導入に積極的になると、仕事を奪われる人たちが出てくることも考えられますが?

単純作業は無人化されていくことになるでしょう。しかし、人間だからこそ付加価値を生み出せることもあります。私たちの場合なら、営業や開発などの分野に活躍の場がシフトしていくことになるでしょうね。

実際、グローバル化を進める現場では経験のある人たちが求められています。空調未開の地に市場をつくり、工場をつくり、その地域のお客様が求める商品やサービスを開発していくのは、まだまだ人間にしかできないことですから。

――約8割が外国人という組織の中だと、個性がなくなったといわれる今の日本の若者が活躍する場がなくなるような気もしますが……。

たしかに、今の若い人たちは体制順応型の人が多いと思います。しかし、それは迎合しているとか、個性がないとかではなく、恵まれて育ってきているからでしょう。

彼らも、必ず自分の意見を持っています。自分を認めてほしい、人の意見を聞いてみたいという思いがあるのです。それを引き出すのは、リーダーの役割です。出る杭がないなら、出る杭にしてあげる。引っ張り上げることです。あえて反対意見を言ってみたり、誘導してみたり、部下との対話の中から、その人の持つ意見を見つけてあげるということです。そのためにリーダーに必要な資質は、人を好きだと思えること。部下を好きになり、一人ひとりを見ることを意識すると、それぞれに個性があることがわかります。そして、その個性を認め、出てきた杭は打たない。この考え方は、生活環境も宗教も異なる環境の中で成果を上げるために必要な、ダイバーシティマネジメントに通じるところがあります。

▼QUESTION
1 生年月日、出生地

1935年3月17日、京都府京都市
2 出身高校、出身大学学部
同志社高校、同志社大学経済学部
3 好きな言葉
恕(じょ)
4 座右の書
『人を動かす』デール・カーネギー
5 尊敬する人
徳川家康
6 私の健康法
妻の手作り野菜ジュースを飲むこと
井上礼之(いのうえ・のりゆき)
ダイキン工業取締役会長兼グローバルグループ代表執行役員
同志社大学経済学部卒業後、1957年大阪金属工業(現・ダイキン工業)入社。人事部長などを経て94年、代表取締役社長に就任。2002年、代表取締役会長兼CEOに就任。14年より現職。ダイキン工業を空調でグローバルトップ企業に育てた。
(聞き手・文=洗川俊一 撮影=澁谷高晴)
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