証券業界でAI(人工知能)の導入が加速してきた。それに伴い、証券会社の働き方が大きく変わろうとしている。単純な業務は自動化が進み、一方で人は付加価値の高い業務に注力していくことができる。AIの徹底活用で野村証券は業界で存在感を示すことができるのか――。

「5分後の株価」予測で20%パフォーマンス改善

写真=iStock.com/blackred

世界の証券市場は今、AI化の流れが急速に加速し、マンパワー中心のトレーディングからコンピュータによるトレーディングへと大きく変化している。米国ゴールドマンサックスは2000年のピーク時には600人いたトレーダーが17年には2人まで減少し、一方でシステムエンジニアが急増しているという。

こうした流れは何も欧米だけではない。日本でもAIによるトレーディングの波が押し寄せている。

業界最大手の野村ホールディングス(HD)は16年4月からAIを使って「5分先の株価」を予測するシステムを導入、アルゴリズム取引をするすべての機関投資家に対してサービスを提供している。

ちなみにアルゴリズム取引とは、コンピューターシステムが株価や出来高などに応じて、自動的に株式売買注文のタイミングや数量を決めて注文を繰り返す取引のことで、自らの取引によって株価が乱高下しないように売買注文を分散したり、また株価が割安と判断したタイミングで自動的に買い注文を出したりする。

「アルゴリズム取引における執行アルゴリズムのパフォーマンスは以前に比べ20%程度改善されました」

こう語るのはこのシステムを運用している野村証券トレーディングング・プラットフォーム営業部プロダクト課の責任者を務めるエグゼクティブ・ディレクターのフィラス・ハジ・タイブ氏だ。

東京証券取引所(東証)では1秒間で相場に関する2万5000メッセージ(注文)があるといわれている。これを人間がすべてフォローするのは不可能だ。1人のトレーダーが注文を受けられるのはどんなに多くても1日100件が限度、普通は数十件。しかし、このシステムを使えば数万件の受注を一度に受けることができる。しかも人間と違って疲れてしまって投資機会を逃したり、判断ミスをしたりするという心配もない。

「だからAIに解析してもらい最良の答えを求めているのです」(ハジ・タイブ氏)

東証の証券取引で電子化が進められるようになったのは2010年ごろから。それまではこうした高速取引は行われてはいなかった。

「当時はまだ2秒に1回のペースでマッチングをやっていた。だから、こちらからどんなに高速なシステムを導入しても全く役に立たない状況でした。ところが2010年1月4日から新しいシステム『Arrowhead』を導入し、さらに15年9月24日からリニューアルしてほぼリアルタイムで取引ができるようになりました」(ハジ・タイブ氏)