料理はコースからアラカルトに進化した

【佐渡島】いい例は料理です。日本にもともとあったのは和食ですよね。そこにあるときイタリアンやフレンチが入ってきた。でも当時の日本人はイタリアンやフレンチの楽しみ方を知らない。だから、最初はコース料理を食べるんです。どんな料理があるのかもわからないので、外からきたものそのまま楽しむしかなかった。

でも、何度か食べると、「パスタがある」「ワインと一緒に楽しむ」といったことがわかってくる。日本人のクリエイティビティが上がるわけです。そうなると今度はアラカルトで食べる人が増えてくる。好きな料理を自分で組み立てられるようになったからです。すると街には、アラカルトを出すビストロみたいな店が増えてくる。つまり余白の量が増えたんです。

【高橋】おもしろい!

【佐渡島】『美味しんぼ』の初期には、おいしいイタリアンレストランの見分け方として「アルデンテでパスタを出す」というエピソードが出てきます。当時はアルデンテ(歯ごたえが残るゆで上がり)でパスタを出す店がなかったんですね。ほとんどの人は芯までゆでたナポリタンしか食べたことがなかった時代ですから。

【高橋】今は家庭のパスタだって、アルデンテで出てきますよね。

【佐渡島】自宅でイタリアンやフレンチを作る人も多いはずです。日本におけるイタリアンやフレンチの食文化は、余白が一切なかったコース料理の時代から、ホームパーティーができるまでに進化したわけです。

ディズニーやイケアは考えなくても楽しく過ごせる

【高橋】料理以外にもたくさん例がありそうですね。

【佐渡島】誤解を恐れずに言うなら、「週末にディズニーランドに行く」というのは、クリエイティビティの高い楽しみ方だとは思えないんです。

【高橋】わかる気がします。

【佐渡島】ディズニーランドは楽しみ方を巧みに設計しています。コース料理と同じで余白がないんです。みんなと同じ順番をたどることになる家具店の「IKEA(イケア)」もそうですね。

【高橋】確かに余白がない。

【佐渡島】つまりディズニーランドやイケアは、あまり考えなくても楽しく過ごせる場所なんです。もちろん「コース料理」ではなく「アラカルト」で楽しんでいる人たちもいます。たとえば「ディズニーランドで一切アトラクションに乗らない」という過ごし方です。僕はそれこそがクリエイティビティだと思うんですよ。