新しい発想をするのが、苦手な人には

ただ、注意したいのは、クリエイティビティには個々人のパーソナリティが大きく関わるということです。

人には、新しいアイデアを次々と生み出せるようなタイプもいれば、そうではないタイプもいます。私が三井デザインテックと共同で実施した、日本のビジネスパーソン3000人を対象にした調査では、個人のパーソナリティによって、職場風土とクリエイティブ・パフォーマンスの関係性に違いがあることがわかりました。クリエイティブなパーソナリティを持つ人材は、職場におけるKEYSの各次元が高いほど、クリエイティビティが大きく増加します。

一方、クリエイティブなパーソナリティではない人材は、KEYSの各次元が低い段階からKEYSの各次元が高まると、クリエイティビティが大きく増加しますが、KEYSの各次元がさらに高まると、効果が低減していき、非常に高いとクリエイティビティが減少する傾向が見られました。

過度にクリエイティビティを奨励すると逆効果に

この結果から推測できることは、クリエイティブな発想をすることが苦手な人であっても、上司や周囲が新しいアイデアを出すように少し促すと、クリエイティビティが発揮される可能性があるということです。過度にクリエイティビティを奨励すると、それが悪い意味でのプレッシャーとなって、クリエイティビティを発揮しにくくしてしまうかもしれません。

一方、クリエイティブな能力の高い人の場合は、中途半端な職場風土ではあまり効果がなく、クリエイティブな職場風土をとことん追求したほうが、より高いクリエイティビティが発揮されると考えられます。クリエイティブな人材が集まるグーグルなどは、まさにこのパターンの企業と言えるでしょう。

現実の職場は、クリエイティビティの高い人材と低い人材が混在しているのが普通です。その場合、組織全体のクリエイティビティを高めるには、どのような職場風土にすべきか。これは、なかなか難しい問題と言えます。人材によって施策を変える方法が考えられますが、横並び意識の強い日本企業では難しいかもしれません。

今後は、日々の職場での行動ログをアンケートやセンサー技術などで集積し、ビッグデータを分析することによって、クリエイティビティが発揮されやすい環境について、より具体的なことが明らかになっていくのではないかと考えています。

稲水伸行(いなみず・のぶゆき)
東京大学大学院経済学研究科准教授
東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。東京大学ものづくり経営研究センター特任研究員、同特任助教、筑波大学ビジネスサイエンス系准教授を経て、2016年より現職。著書に『流動化する組織の意思決定』など。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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