週3回、美術館に通った日々
【酒井】そういう意味では、いまの若者は非常に気の毒ですね。ここ15年から20年、上司の側に余裕がなかった。かつては上司が部下に対して「ちょっと連れていってあげたい店があるから、一緒に行かないか」と誘ったり、「接待で良い店に行くから、一緒についてこい」などと言ったりできた。
若者は、そういう機会に高級店を知り、大人の社交や交渉術、マナーなどを学べました。同時に大人になるとよいことがあるんだ、と実感できました。それがいまの若者は経験できません。
【大西】たしかにこの20年間、本当にデフレの時代で、変化のない時代に育ってこられた方は、ある意味気の毒ですね。先輩から教えられたということでは、ある上司からは「1週間に3回は美術館へ行け」と言われました。「とにかく1時間でいいから行ってこい。絵でも何でもいいから美しいもの、きれいなものを見てこい。それで感性が養われるんだ」と。
【酒井】実際に行かれましたか?
【大西】実は、当時私がいた伊勢丹「男の新館」の上に美術館がありまして、週に2回はそこへ行き、土日のどちらかで別の美術館へ行っていました。それで感性が養われたかというと実感はないのですが、自分では気づかないうちに吸収していたものはあったかもしれません。
【酒井】その上司が「美術館へ行け」とおっしゃったのは、感性を磨くことのほかに素養を身につけさせるという意味があったかもしれませんね。
日本人の経営者同士だと一緒に食事をしても、話題は最近の会社の景気はどうだ、利益率はどれくらいかなどといったことになりがちですが、海外の経営者だと、話題は音楽、アート、歴史、食事、ワインのことなど文化や教養についての話題も頻繁に出ます。そこで素養が試されますから、そういう場面のことも視野に入っていたのかもしれません。
【大西】その通りかもしれませんね。