男はまだまだモノを買う
【酒井】もうひとつ、私が百貨店に可能性があると感じているのは、男性をターゲットにすること。ファッションは女性を中心に語られがちですが、女性がどんなにおしゃれになってもその横に寄り添う男性が釣り合っていなかったらそれはやはり悲しい。それなりに男性にも格好よくなってほしい。
また、女性は化粧品を始め頻繁にブランドスイッチします。対して男性は、一度気に入ると、10年、20年と同じモノを使い続けます。ですからマーケットとして狙うのは男性がいいと感じているのですが、そのあたり、大西さんはどうお考えですか。
【大西】その通りです。女性は流行としてのファッション、そのときのトレンドが購買のきっかけになりがちですが、男性の場合、モノにこだわり、自分が気に入った良いモノを長く使う傾向にある。こだわり度は、圧倒的に男性のほうが高いです。男性は潜在的にそういう気持ちがあるので、新しいモノを提案することで気持ちを動かし、購買に変えていただくという面では、メンズはポテンシャルがあるのではと思っています。
以前、ある経営コンサルタント会社の男性の社長がテレビ番組に出るようになり、衣装協力をさせていただきました。その方に最初に着ていただいたのがアルマーニのスーツでした。その方はそのとき60歳代半ば。
以来、お洒落に目覚められて、普段お召しになる服、靴やメガネなどの小物に至るまで、自分なりのこだわりをもって選ばれるようになりました。髪形も、髪の色もガラリと変えられたのです。いまでもときどきお会いしますが、「アルマーニのスーツを着たとき、自分の価値観、人生観が変わった」とまでおっしゃってくださる。それはとても嬉しいことです。
ここ数年、婦人のアパレルは消費が活発化していませんが、実はメンズはずっと堅調なんです。ひと昔前は、経済環境が悪くなると「お父さんのスーツは後回し」ということで、まずはメンズのスーツの売上が落ちましたが、いまはそうなっていないことからも少しずつ変わってきているのかな、という気がします。
そしていまは、多くの人がモノの豊かさだけではなく、心の豊かさを求めています。これからの百貨店を含めた小売業は、モノでもコトでも、お客様の心に響くものを提案できなければ非常に厳しいと思いますが、この辺りの感覚のポテンシャルも実は男性のほうが強いのではないか、と考えています。
【酒井】急激な成長は期待できないかもしれませんが、手堅く、実はやりがいがあるのは男性マーケットかもしれませんね。もうひとつ興味深いのは、男性はウインドーショッピングをしませんね。女性はお店に行って手ぶらで帰る場合も多いですが、男性は必ず買う。買うものがあるからお店に行きますね。つまり、男性の場合は「客数=売上」になるいいマーケットだな、と。
【大西】おっしゃるとおりです。購買率は圧倒的にメンズが高いですね。