一流販売員の仕事術
【酒井】本当にそうですね。私もよく百貨店で買い物をするのですが、必ず贔屓の男性販売員と女性販売員を一人ずつ持つようにしているんです。なぜかというと、講演では女性の聞き手が多い場合と男性の聞き手が多い場合があり、それぞれウケるファッションに違いがあるんです。
女性が多い講演では、女性販売員にコーディネートしてもらったファッションのほうがウケがいい。ところが男性が多い講演で同じ格好をすると、少し浮いてしまうんですね。聞き手が男性の場合は少し控えめなファッションのほうがよいらしく、それを感覚としてわかるのはやはり男性販売員なんです。
また男性は商品知識をもっている販売員を好み、女性は自分の考えに共感してくれる販売員を好むといいますね。このような、店頭のサイエンスを、小売業はまだまだできるような気もしますね。
【大西】その通りだと思います。これだけネットで何でも買える時代だからこそ、リアルな店舗をやる意味、そのなかの販売員の位置づけ、役割がますます重要になってくると思います。
【酒井】UNITED ARROWSさんやBEAMSさんなどは、お洒落があまり得意でない人もターゲットにしているそうですね。たとえばシャツを買おうとしているお客様に「これをお召しになるなら、このパンツと組み合わせると素敵ですよ」などと提案する。実際に試着をしてみるとお客様は「いいな」と実感し、どんどんはまっていく。そしてセンスある提案をしてくれた販売員に「次もまた揃えてほしい」と思うようになる。
と考えると、百貨店がファッション感度の高い人を顧客に設定していることが、実はそもそも狭すぎるのではないでしょうか。むしろファションに敏感でない人、得意でない人に対してのほうが、販売員の方はプロとしてのアドバイスができるし可能性が広がる。これはユニクロやZARAではやってくれませんし、顧客もそれを望んでいないでしょう。
【大西】酒井さんがおっしゃってくださったことはまさにカギです。お客様が潜在的にはもちつつ、ご自分では気づいていない部分を、プロの販売員がきめ細かく丁寧に接客することで気づいてもらえることがあると思うのです。
そしてお客様が良い意味で変わっていく。とくにいまはファッションがダウントレンドになってしまっているので、「ファッションは文化なのだ」ということを定着させていくためにも、百貨店の果たす役割は大きいのではないかと感じています。