韓国政府と大手IT企業による合同事業
とにかく五輪の観光客は、どこにいっても「5G」というキーワードを目にしたはずだ。どれだけ一般の人に5Gの意味が伝わっているか不明だが、勢いだけは感じる。
KTのファン・チャンギュ会長は、昨年10月末に5Gインフラの構築を完了させると、次のようなコメントを発表している。
「ピョンチャン試験サービスを元に世界市場で5Gを主導し、第4次産業革命のプラットフォームを作っていくつもりだ」
つまりピョンチャン五輪は、韓国政府と大手IT企業による世界戦略のための合同事業という立て付けなのだ。
韓国政府は5Gを政府主導の国策として推進している。昨年、韓国政府は「韓国が再びIT分野で世界をリードする構想」を発表し、「第4次産業革命委員会」を新設している。これはドイツの「インダストリー4.0」アメリカの「インダストリアルインターネット」、中国の「中国製造2015」、日本の「コネクティッドインダストリー」に続く概念だ。
業界関係者は韓国政府の思いの強さについて、こう話してくれた。
「KTもサムスン電子も、基地局インフラ設備にはそれほど強くありません。このためオリンピックの実証実験を通じて、欧米企業に対し端末や設備機器を売り込み、あらためて世界のキープレイヤーに返り咲くことをめざしているのでしょう」
5Gになれば「有線LAN」のほうが遅くなる
5Gについて、どれくらいの人が、その影響力を理解しているだろうか。5Gとは、「第5世代移動通信」の略称で、最大スピードが20Gbps(毎秒ギガビット)。これは現行の4Gよりも40~50倍ほど速いことになる。
どれだけ速いかというと、現在の有線LAN接続よりも速い。主流のLAN接続は、100Mbps~1Gbpsだが、5Gは最大20Gbpsだから、有線より無線のほうが速くなってしまうのだ。
また、レイテンシー(通信遅延)は1000秒分の1以下と、ほとんど同時といえるスペックを持っている。レイテンシーが改善されることで、これまで安全面から進められなかったクルマの自動運転や医療機器の遠隔操作などの技術を飛躍的に向上させるといわれている。
通信大手ノキアのリージョンプロジェクトマネジャーのサン・リー氏は「有線接続が遅延の原因になっている」と説明する。
「一般に、LAN接続のほうが速いのではという認識がありますが、実はLANケーブルそのものがレイテンシーを悪化させる原因になっています。5Gでは基地局とデバイスがダイレクトにつながるカタチになり、遅延は(事実上の)ゼロ秒をめざしています」
オリンピック中継でみられた3つの手法
こうした技術をピョンチャン五輪では試合中継などに活用している。代表例は次の3つ映像手法だ。
1つめは「タイムスライス」。これは決定的シーンを複数の方向から分割して多角的に見ることができるようするものだ。映画『マトリックス』でみたような立体映像といえばわかりやすい。このためカンヌンのアイスアリーナでは、フィギュアとショートトラック競技が行われる場所の壁面に100台のカメラが一定の間隔で設置されていた。
2つ目は「オムニビュー」。ストリーミングによって競技中に視聴者が望む視点のリアルタイム映像と各種情報を見ることができるものだ。バイアスロンなどでは、GPSと組み合わせることで、位置情報を得ながら、そのシーンを見られるようにする。
3つ目は「シンクビュー」。ボブスレーのソリの正面などにカメラを設置して、選手視点での迫力ある映像を見せるものだ。
カンヌンとソウルのKTパビリオン、カンヌン駅のICTプラザでは、サムスンの5G端末が用意され、こうした映像手法を体験できるようになっていた。