「善意」の判断が招くリスク

政治の世界において、だます方が悪いのでしょうか、だまされる方が悪いのでしょうか。対話を繰り返して、相手が図に乗り、無理難題を吹っ掛けてきたとき、さらに感情悪化が募り、双方の溝が深まるリスクがあります。誰がそのリスクの責任を取るのでしょうか。

「恩を仇で返す」ことをされた時、人は最も怒りを感じます。「対話を重視する」という善意から先方の無理な要求を受け入れ続けた結果、むしろ事態が悪化するリスクについて、私たちは意識的でなければならないと思います。

16世紀、イタリア・ルネサンス時代の政治思想家マキャベリはこう言っています。「人を率いていくほどの者ならば、常に考慮しておくべきことの一つは、人の恨みは悪行からだけではなく善行からも生まれるということである。心からの善意で為されたことが、しばしば結果としては悪を生み、それによって人の恨みを買うことが少なくないからである」(『君主論』より(※2)

(※1)朝日新聞 1995年11月17日朝刊。
(※2)塩野七生著『マキアヴェッリ語録』(新潮文庫)

宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家。1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『「民族」で読み解く世界史』(日本実業出版社)などがある。
(写真=Fujifotos/アフロ)
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