新聞は「技能実習生」ばかりで「留学生」を無視
新聞配達は人手不足が最も深刻な職種の1つだ。とりわけ都市部では配達を担う人が足りず、留学生頼みの状況が生まれている。東京都内には、配達員全員がベトナム人留学生という販売所もあるほどだ。
全国紙には『産経新聞』を除いて朝刊と夕刊がある。朝夕刊を配達し、さらに広告の折り込みなど作業をこなせば、仕事は「週28時間以内」では終わらない。
販売所における留学生の違法就労は、新聞各社もわかっている。そんななか、新聞紙面で“偽装留学生”問題を取り上げれば、自らの配達現場にも非難が及びかねない。それを恐れ、知らんぷりを決め込んでいる。
一方、新聞各紙は外国人技能実習生については頻繁に報じる。未払い残業やパスポートの取り上げといった実習生が被る「人権侵害」に関し、声高に批判する報道は多い。しかし日本で今、最も虐げられた外国人労働者は実習生ではなく留学生だ。そのことは、10年以上にわたって外国人の働く現場を回ってきた筆者の取材経験から断言できる。
借金を返すまでは奴隷のように働くしかない
実習生にも借金を背負い来日する者は少なくない。だが、“偽装留学生”の借金は実習生の比ではない。しかもアルバイトで稼いだ金は、「留学ビザ」と引き換えに学費として吸い上げられる。働く現場にしろ、実習生の受け入れすら認められていない夜勤の肉体労働が多い。その典型がコンビニ弁当の製造工場などである。
“偽装留学生”は「留学」を出稼ぎに利用する。多額の借金をするのも、彼ら自身による選択だ。しかし来日後は、日本語学校や人手不足の企業などに都合よく利用される。日本での生活が嫌になっても、借金を抱えて母国に帰れば家族ごと破産してしまう。少なくとも借金を返し終わるまでは、この国で奴隷のように働き続けるしかない。
コンビニは24時間オープンしていてほしい。弁当は少しでも安く買いたい。宅配便は時間通りに届けてほしい――。それは日本人の多くが望んでいることだろう。しかし、途上国の若者たちを食い物にしてまでも、私たちは「便利で安価な生活」を維持していくべきなのだろうか。
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『年金夫婦の海外移住』(小学館)などがある。