松本社長のむちゃぶりとは……
しかし、藤原さんは入社当初からスムーズなキャリアを歩んでいたわけではまったくなかった。1997年に大学を卒業後、旭硝子、外資系広告会社、外資系飲料メーカーを経て、2011年にカルビーに入社。新たに参入した栄養調整食品のブランドマネジャーになった。採用プロセスでは会っていなかった松本氏の最初の印象は、まさに強烈だった。
「担当するブランドの状況を報告しないといけないんですが、会うたび、毎回言われていたのが、『いつ、やめるの? そのブランド』でしたので(笑)」
事業は結局、1年でクローズ。松本氏の印象は、恐ろしい、しかなかったとか。ところが上司の推薦で、フルグラの担当に抜擢される。このとき、松本氏が行ったのが、とんでもない取り組みだった。フルグラのチームを開発からマーケティングまで、全員入れ替えてしまったのだ。考え方が変わらないとビジネスは大きくならない、と。
「驚きました。引き継ぎも何もないに等しいですから、これまた恐ろしくて」
マーケティングのメンバーは、藤原さんと同僚女性が1人。そして松本氏から飛んできたのは、とんでもない数字だった。
「取りあえず100億円、と。それで“フルグラ100プロジェクト”が立ち上がるんです」
30億円を、いきなり3倍にしないといけなくなってしまった。
“お金は使わずに知恵を使え”
プロジェクトの中心は、月1回の松本氏との会議。ここで藤原さんは、いろいろな示唆と指示をもらう。
「アメリカのシリアル市場は1.2兆円。でも、日本は250億円だった。50倍の開きがあるわけです。こんなものは、納豆かシリアルしかない、と」
この開きは絶対に縮まるはず、という大きな仮説のもと、そのために何ができるのか、が求められた。藤原さんがまず見抜いたのは、配荷率の低さだった。
「データを見ると、そもそもフルグラを置いている店が少なかったんです。ああ、これは普通の食品のレベルまで配荷を上げれば、100億円まではいくかな、と思いました」
そのためにも必要だったのが、社員の啓蒙だった。社外の啓蒙の前に、社内の啓蒙を思い立ったのだ。まずは、社内でおいしさを認識してもらった。
「100億円にしろ、とは言われましたけど、そのために特別に資金をいただけるわけではなく。“お金は使わずに知恵を使え”というのが、前提でした」