SNSで簡単にヒーロー&ヒロインになれる時代
男性であればヒーローになりたい、女性であればヒロインになりたいという願望は、誰しも抱くものだ。だが、年を重ねれば、現実の世界でヒーローやヒロインになるのは簡単ではないと思い知らされる。だから、ほとんどの大人は、平凡であることに退屈しながらも、平々凡々とした毎日を送っている。
ところが、インターネットが出現して、状況が一変した。ヒーローやヒロインになることが不可能ではなくなったのだ。いまや、“受けがいい”写真、あるいは過激な発言をSNSに投稿すれば、ネット上では誰でもスポットライトを浴びられる時代である。
「将来、誰もが15分間は世界的な有名人になれるだろう」と、ポップアートの旗手、アンディ・ウォーホルが言ったのは1968年だが、当時はなかったSNSというツールを手にして、われわれはその気になればヒーロー願望もヒロイン願望も満たせるようになったのだ。
▼トランプ大統領は「自己愛過剰社会」の象徴
こういう社会状況で、自己愛が肥大するのは当然であり、「現在、アメリカではナルシシズムがエピデミック(流行病)にまでなっている」という指摘もある。(『自己愛過剰社会』ジーン・M・トウェンギ、W・キース・キャンベル著/河出書房新社)
「エピデミック」とは「ある集団内の非常に多くの個体が罹患する病気」だが、アメリカではナルシシズムがまさにこれに当てはまる。前掲書によれば、自己愛的なパーソナリティーの特徴を示す人は1980年代から現在まで肥満と同様の速さで急速に増加している。しかも、2000年以降、その増加傾向に拍車がかかっており、「アメリカでは20代の人のおよそ10人に1人、全年齢の16人に1人が自己愛性人格障害と診断された経験がある」という。これは衝撃的な数字である。
もっとも、この数字は氷山の一角にすぎず、その背後には何倍もの自己愛的なアメリカ人が存在するのではないか。というのも、ツイッターで過激な発言を繰り返すトランプ大統領は、「見て、見て、わたしを見て!」という欲望が強く、「自己愛過剰社会」の象徴のように私の目には映るからだ。大統領自身が精神科を受診して自己愛性人格障害と診断されたという報道はないが、診断基準を満たしている可能性が高い。
トランプ大統領を「自己愛過剰社会」の象徴とみなすのは、それなりの根拠がある。今年10月にアメリカの27名の精神科医や心理学者などがトランプ大統領を診断した本を出版したのだが、その中で「病的な自己愛」が指摘されており、「やはり、そうだったのか」と腑に落ちた。(”The dangerous case of Donald Trump”直訳すると『ドナルド・トランプという危ない症例』。邦訳は未発売)