バッハの忍耐や苦労に思いを馳せる
ヨハン・セバスティアン・バッハは学校の音楽室に必ず肖像画が飾ってある、最も有名な作曲家の一人である。バッハ一族としてお家芸的に作曲方法を伝え、子孫に多くの作曲家を輩出した。バッハ自身も毎週、教会のミサのために新曲を発表し続け、生涯にわたり1000曲以上の楽曲を世に残している。その功績は「音楽の父」と呼ばれることからもうかがえる。
バッハの楽曲を順に寝床で再生していると、穏やかな心を取り戻したあと、不意に涙がでそうになることがある。ただただ淡々と、そして工夫を凝らして、作曲という仕事を続けてきたバッハ。工夫の中に規則性を見出し、それを子供たちに伝え、継承したバッハ。自ら実践し、結果を残してきたバッハ。苦労も苦難ももちろんあったに違いない。けれど、こうして穏やかで美しい楽曲を今に残してくれている。続けることの難しさを突きつけられている毎日に、バッハは楽曲で語りかける。まだまだこれからですよ、と。
経営者特有の不安感も、この瞬間には忘れてしまっていることにふと気づくだろう。もう一回、明日から頑張ろう。そんな風に思えるのが、この曲なのである。
母親の胎内にいるような安らぎを
難しいことは何も考えたくない、穏やかに横になっていたい。そんな夜にはぜひ、フランスの作曲家を聞いてみてほしい。「眠れるクラシック」などのコンピレーションにも頻出する、ドビュッシーやフォーレ、サティがオススメの作曲家だ。
ふんわりとつながる優しいメロディと、揺らぎを感じさせるルバートした進行。バッハでのアプローチとは真逆と言える楽曲が、疲れた体と脳を休めてくれる。揺れて流れるような音は、まるで母親の胎内にいるかのような安らぎを与えてくれる。例えば、ドビュッシーの『月の光』、フォーレ『シチリアーノ』、サティ『ジムノペティ 第1番』だ。
優しく、少し寂しげで、そしてロマンチックで温かい。ゆっくりと流れるようなテンポは、母親が幼子を寝かしつけるときに優しく背中を叩くリズムにも似て、なぜかホッとする。頭の芯まで疲れきった夜は、しばし大きな愛を思い出すような気分になるといい。
かつてはみな子供だった。24時間、世話をしてもらって生き、背中をトントンと押されながら、心から安心して眠った。どれだけ強がって頑張って生きていても、根っこで求めているのは、そんな母の温かさ、優しさに満ちた愛。
取引先の手強い担当者も、かつては誰かに生かされていた子供だったのだ――。そんな慈愛に満ちた気持ちもわいて、ほんの少し気分が晴れる。何も解決していないけれど、温かな気持ちを抱えて、眠れるような気がしてくる。