お金と幸福度の関係は、ある程度の収入までは正の相関関係があると言われています。昔から「四百四病より貧の苦しみ」というように、やはり貧乏はつらい。だいたい年収1000万円くらいまでは、少しでも稼ぎを増やすことに関心が向くのは当然だと思います。

年収1000万円以上は、いくら増えても幸せにならない

しかし、1000万円のラインを超えてくると、お金が増えても幸せに直結しなくなります。幸せの対象が、お金をどのように使うのかに変化してくるのです。人としての使命を果たして一定の私財ができたら、それを世のため人のために使っていく。こういう考えに、人はより大きな幸福や生きがいを感じるようになっていきます。

お金を世のため人のために使った人物として、のちのUSスチール創業者のアンドリュー・カーネギーがいます。彼は会社を売却して、様々な公共施設をつくりました。現在、それを真似しているのがビル・ゲイツで、彼は財団をつくって慈善事業に財を投じています。このように、アメリカではキリスト教の奉仕精神が根底にあるせいか、お金持ちがボランティア活動に熱心に取り組んでいます。

彼らのように一定以上の成功をおさめた人々を見て、世間も成功者を妬むのではなく尊敬し、自分たちもお金儲けをしようという発想になっていくのです。

それに対して、日本ではどうでしょうか。松下幸之助さんは松下政経塾をつくられましたし、近年では稲盛和夫さんが京都賞をつくられました。歴史を遡れば、数百以上の慈善団体をつくられた渋沢栄一さんもいらっしゃいます。素晴らしい方々がおられる一方で、欧米に比べると数は少ない。日本人は、公のためにお金を使うことをもっと覚えたほうがいいと思います。

お金の魔力に屈しないためには

自分で直接、正しいお金の使い方をすることが難しいなら、それができる人に託してもいい。出光興産の創業者、出光佐三さんは、実家が破産した状態から事業を起こそうとしました。そのとき資金を提供してくれたのが、日田重太郎さんという資産家です。

日田さんは、「俺は事業なんぞに興味はないから、返す必要はない。独立自営の主義を徹底して、親に孝行して兄弟仲良くせよ。このことは他人にも言うな」と言い、自分の別荘を売ってつくったお金を手渡しました。出光さんはそれを元手に会社を設立し、人類の平和や繁栄を目指して経営を行った。日田さん自身が直接事業を行わなくても、人を介して社会に貢献したわけです。