BMWはどのように女性の支持を高めたか

CRMがもたらす効果には、短期的効果と長期的効果があります。短期的効果でまず挙げられるのが「売り上げ増」です。前述のアメリカン・エキスプレスのキャンペーンはその一例です。そして、もう一つが「サンプリング(実際に体験してもらうこと)促進」です。BMWが、女性の支持を高めるために、試乗距離1マイルごとに1ドルを乳がん基金に寄付するキャンペーンを行いました。その結果、3万5000人が試乗し、400台の販売と1万ドルの寄付につながりました。一般に、試乗すると「買わないと申し訳ない」という気持ちになりますが、寄付がつくことによって、その気持ちが軽減され、試乗しやすくなる効果があると考えられます。同様の取り組みはワコール(ブラジャー試着→乳がんの早期発見啓発活動に寄付)や東京トヨペット(プリウス試乗→緑化事業に寄付)などでも行われています。

一方、長期的効果としては、第一にブランドに対する効果が挙げられます。その一つが「ブランド特性補完」です。代表例として、ケルヒャーの世界遺産や各国の名所を洗浄するプロジェクトがあります。CMでは、洗浄した部分と洗浄していない部分を比較して見せており、社会貢献を通じて洗浄力という特性を補完していると考えられます。

もう一つの例が、トヨタ自動車の「アクアソーシャルフェス」です。ボランティア参加者は「アクアソーシャルフェス」と書かれたビブスを着て清掃や環境保全活動をします。参加者がその様子を撮影してSNSに投稿し、拡散することで、「アクア=環境にいい」というブランド特性を補完しています。

ブランドに対するもう一つの効果が、「ブランド拡張時の命綱づくり」です。流通科学大学特別教授の石井淳蔵氏がブランドがその支持対象を拡張するときは、ブランドがその価値を喪失する契機でもあり、これを「命がけの跳躍」と名づけました。その際に有効なのが、命綱づくりです。