医師「こんなに高い医療費を負担できるのか……」

「え、そんな少ないの?」と驚かれる方も多いだろう。しかし、これらのデータはあくまで目安だ。

とりわけ乳がんは、がんの遺伝子の特徴や患者の状態に応じて最適な治療を行う「個別化医療」が進んでいる。効果的な薬剤も続々登場しているが、それがいずれも高額なのだ。

高額療養費の適用になったとしても、70歳未満で一般的な所得区分(年収約370万~約770万円)の場合で、1カ月の負担は約9万円にのぼる。高額療養費には「多数該当」という制度があるので、年4カ月目から一律4万4400円にハードルが下がるものの、たとえば、毎月の給与が35万円の人が、医療費だけで1年のうち3カ月間も各9万円かかるとなると、どうだろう?

言うまでもなく、がんになっても基本的な生活費や家賃・住宅ローン、子どもの教育費などはいや応なしにかかる。貯蓄や民間保険など何らかの備えが不十分であれば、あっという間に家計は火の車だ。

以前取材したある医師は私にこうつぶやいた。

「効果が高いのは患者さんにとって喜ぶべきことですが、こんなに高い医療費を負担できるのかどうか……」

医師は患者の体のことだけでなく、懐具合も気にしなければならない場合があるのだ。

▼高額な先進医療や自由診療 選択するのは「金持ち」だけではない

前述の「平均額」はあくまで目安。そのことを胸に刻んでほしい。どのような治療法を選択するか、がんの進行度がどのくらいなのか、どのようながんのタイプなのかなどによって、ケース・バイ・ケースであることは知っておきたい。

治療法といえば、健康保険の対象にならない先進医療や自由診療を選択する患者もいる。これは前述の(2)のカテゴリーに分類される費用だ。

先進医療や自由診療は総じて高額なものが多い。「どうせ、やるのはお金持ちだから大丈夫なんでしょ。私は関係ない」と思うかもしれない。ところが、実際これらの治療法を希望する患者は、お金に余裕のある人ばかりではないのだ。