「胸に硬い部分がある」 Aさん(32歳 3児の母)

「ある日、左の乳房にしこりがあることに気づいた。指にコロンと硬い部分が触れる。“忙しい”という言い訳と“まさか”という思い。気づくと6カ月経ってしまっていた」

乳がんは女性の患うがんの中で最も多い。最近は35歳以下で患う若年性のがんも増えている。

「がんかもしれないと思うと怖い」と、検査をなかなか受けない人がいる。Aさんは仕事や育児に忙しかったが、「怖い」という無意識の感情も、早期発見を邪魔していた。

実はAさんとは、私のこと。まさに医者の不養生、お恥ずかしい。検査したら乳がんだとすぐにわかった。当時、一番下の息子は2歳。心配はあった。でも14年後の現在、オバサンにはなったが診察を続けている。しかし診察室では、依然として「怖くて検査に行っていない」という声を聞く。数カ月間だけでなく1年以上も放っておいてしまう人もいる。「がんだったら怖い」という恐怖感に打ち勝つために、「なぜ早く検査したほうがいいか」を説明したい。

がんの進行程度によって10年後に無事でいられるかの率をまとめた統計(10年生存率)がある。これによると、しこりの大きさが2cm以下だった人が10年後に生きている可能性は約9割。しこりの大きさが2.5cmで脇の下のリンパ節に転移が疑われる場合でも約8割だ。しこりが5cmを超えても10年後に生きている人の割合は約6割。つまり、早期なら8割以上無事であるし、早く治療を行えば、なおさらいい結果になる。