世間並みの給与も貰えず、滅私奉公を強いられているのに、専門病院のように十分な経験を積むこともできない。では、彼らはどのような仕事をしているのだろうか。

若手医師は「安い労働力」になる

東京大学医科学研究所の井元清哉教授らが、厚労省研究班の仕事として、1万5677人の医師を対象として医師の勤務実態を調査した。その中で、「他職種に分担できる仕事」を質問したところ、結果は驚くべきものだった。彼らは診療以外に膨大な雑務を担っており、予約業務などの事務作業の33%、院内の物品搬送や検査室への患者搬送の30%は、他職種でもできると回答した。医師不足の昨今、こんな仕事を、わざわざ医師がする必要はない。

大学病院が若手医師を欲しがる理由の一つは、無給や薄給でこき使え、派遣会社から非常勤職員を雇うより安いからだ。この点で大学病院経営者にとっては、経済合理的な対応だ。ただ、こんなことをしていたら、日本の医療は駄目になる。

大学病院中心の医療は限界

実は日本の医師の偏在を改善する上で、大学病院こそ、改革が必要だ。『選択』6月号によれば、我が国の60才未満の医師23万4992人のうち、5万705人(22%)は大学に勤務する。病院勤務医に限定すれば、17万381人だから、勤務医の約3割は大学病院勤務だ。

ところが、大学病院の勤務医の生産性は極めて低い。医師一人あたりの入院患者の受持数は年間60人程度で、地方の中核病院の平均(140人)の半分以下だ。

私は東大病院、大宮赤十字病院(現さいたま赤十字病院)、虎の門病院、国立がんセンター中央病院などで勤務したが、東大病院でなければできない医療はなかったと断言する。

高齢化が進むわが国で、求められる医師像は変わってきた。これまで、専門医は大学病院を中心に育成され、教授たちが仕切る「学会」が認定してきた。ところが、高度医療を受け、できるだけ長生きしたいと希望する患者は減り、住み慣れた自宅で家族とともに余生を過ごしたいと希望する患者が増えた。慢性期疾患のケア、在宅医療が求められるようになった。これは従来の大学病院が推し進めてきた診療とは対極だ。

流通業界で総合百貨店が衰退した理由

大学病院はどうあるべきか。今こそ、真剣に考えるべきだ。医療もサービス業。私は、流通業界の経験は参考になると思う。

かつて、三越・そごうなどの総合百貨店は、わが国の流通業界をリードしてきた。

しかしながら、90年代以降、総合百貨店は衰退する。ピークの91年に12兆円であった売り上げは、いまや7兆円だ。

総合百貨店が衰退したのは、「洋服の青山」などの紳士服専門店、「ビックカメラ」などの家電量販店が台頭したからだ。専門店が、顧客のニーズに合う多様な商品を提供したのに対し、総合百貨店は「どの店も同じような商品が並ぶ「同質化」に陥った」(大西洋・元三越伊勢丹ホールディングス社長)という。