こうした無年金や低年金は、現役時代の低収入が原因だ。その象徴が非正規雇用者の増加だろう。現在、賃金労働者の4割がパートや派遣などの「非正社員」となっている。1990年には2割だったことを考えると、25年間で倍増している。この「非正規雇用率」について、「若者が非正規雇用を強いられている」と扱われることもあるが、実は団塊世代の定年が背景にある。定年延長で、正社員から非正規雇用に切り替わった人が多いからだ。
現在では、バブル経済崩壊のアジア通貨危機や、ITバブルの崩壊、リーマンショックなどの経済危機に巻き込まれ、減給やリストラを経験した50年代生まれが年金生活の高齢者に仲間入りし始めたことで、収入が最低生活費(現在の東京都では200万円程度)に満たなかったり、満たしてはいてもギリギリで貯蓄がない世帯といった、「貧困高齢者」「貧困高齢者予備軍」の増加が顕著になっている。
2030年には貧困高齢者世帯が500万世帯超に
先の「国民生活基礎調査」から、無年金世帯と主収入を年金・恩給に頼る低所得(年収200万円以下)世帯数を概算すると、「貧困高齢者世帯」は97年には211万世帯だったが、12年には倍以上の445万世帯に増加している。すでに、高齢者世帯(1327万世帯:16年現在)の4世帯に1世帯が「貧困高齢者世帯」ということになる。
そして、50年代、60年代生まれが本格的に年金生活に突入すると、30年には「貧困高齢者世帯」は500万世帯を超えると予測されている。厚労省が2月に発表した16年の「賃金構造基本調査」では、一般労働者の所定内給与は前年比0.0%と横ばいだった。問題なのは、性別・年齢階層別では、45~54歳男性と60代前半男性、60代女性の賃金が下落していること。労働者数を勘案すれば、40代後半~50代前半の男性が最大の賃金押し下げ要因となっているのは明らかだ。また、企業規模別にみると、大企業の男性賃金のみが全体を押し下げている格好だ。