中越沖地震で柏崎刈羽原発が運転できなくなった際は、東北電力から電力が供給され、計画停電は行われなかった。だが今回は、東北電力の東通原発と女川原原発の運転がストップしており、東北電力の助けを受けることはできない。
50Hzと60Hzで周波数の異なる西日本の電力会社からは電力を十分供給してもらえない。また、北海道電力と東北電力をつなぐ連絡線は一旦直流に戻さないとならないため、多くの電力をやりとりできない。つまり「東京電力が電力を自由にやり取りできる東北電力から電力を供給できないため、計画停電を行う以外に方法がなかった」(橘川氏)のだ。
危機回避のために海水を注入した福島第一原発の運転再開は困難。ほかの原発もすぐに立ち上げられないなか、比較的早く運転再開できると考えられるのが広野・常陸那珂・鹿島火力発電所だが、これも一筋縄にはいかない。3つの火力発電所のうち、常陸那珂を除く2つは、主に重油を燃やして発電している。重油は安定的な供給が可能なものの、それを運ぶタンカーを急遽、増やすことが容易ではない。重油と白油とでは粘度が異なり、一度、重油を運んだタンカーは、より需要の高い白油を運べなくなる。そのため、重油の需要が増えても、それに見合う数のタンカーをすぐには用意できないのだ。
近年、電源構成のなかで原子力の割合が高くなるにつれて、重油を運ぶタンカーの数は激減していた。だが、今回のような災害が起きた際、原子力発電に比べて火力発電のほうが早く回復できる柔軟性を持っている。再度、その特徴を見直してもいいのかもしれない。
また、橘川氏が懸念するのが、今回の爆発事故で「被曝」という言葉が「被爆」と取り違えて受け取られていることだ。
「“ヒバク”という言葉はインパクトが強い。体内に入って初めて“被爆”したと言えるのであって、今回の爆発事故での“ヒバク”は、体外についた“被曝”です。マスコミや政府は、周辺住民の健康を懸念して“ヒバク”という言葉を使っているのでしょうが、使い方に気をつけないと最終的に困るのは風評被害を受ける地元の農民や漁民です」(橘川氏)
今回のように電力の供給が止まったり、計画停電になった場合、生活者レベルでどのような対応ができるのだろう。社会安全研究所の首藤由紀所長は「災害が起こる以前、普段から3日間は電気や水がなくても暮らせるための備えをしておくことが重要だ」とアドバイスする。また計画停電の際は節電が重要。それにより停電時間を短くすることができるからだ。
「こまめに照明を消したり、利用していない電気機器のコンセントを抜いたりといった些細なことでも、積もり積もれば大きなものになります」(首藤氏)
電気が使えない際、頼りになるガス機器だが、ガス風呂給湯器や100V電源を使用しているガスコンロ、ガスファンヒーターなどは電気で制御されているため停電中は使えないものが少なくない。東京ガス広報部は「停電中に使えるガス機器があっても、換気扇が作動しない場合や、夜間はガス機器がよく見えずに操作を誤ることがあるので、十分注意して使用してください。また必ず換気が確保されるようにしてください」と強調する。
自然の猛威を見せつけた震災。二度と起きてほしくないと願うと同時に、普段から備えておくことが肝心だ。
※内容はすべて雑誌掲載当時