今、全国の特養が待機者を抱える一方、稼働率は96%と100%を切る。都内でもベッドに空きがあっても入所者を受け入れられない現実がある。これはなぜなのか。都内の訪問介護事業経営者は、その理由をこう解説する。
「人手不足が原因です。特に夜間のシフトを埋めることが困難で、特養の一部は法的に必要な介護従事者を集められていない。杉並は南伊豆に特養をつくる前にすべきことがありそうですね」
ある姥捨山伝説にはこのようなストーリーがある。
息子が老母を背負い、姥捨山に捨てに行こうと歩いていると、後ろでポキ、ポキッという音が聞こえる。息子が老母に何の音なのか尋ねると、
「お前が帰り道に迷わないよう、木の枝を折っているのだよ」
自らは姥捨山に捨てられてしまうことを悟りながらも、最後まで息子を思う老婆。息子はそのことに気づき、涙して親を捨てに行くのをやめた。
南伊豆にできた東京都杉並区の特養で、行政の数合わせによる犠牲者が出ないことを心から祈るばかりである。もしこの事業が成功事例かのような捉えられ方をされ日本全体に広がってしまうのであれば、杉並区民だけではなく、私たち日本人の倫理観が問われることになる。