共和党保守派と共和党主流派の暗闘
共和党保守派は米国の建国の理念に立脚した愛国主義的なイデオロギーを強く持つ政治グループである。保守派の主な政治的な主張は、減税・規制緩和・家族の価値観の重視などであり、それらを実現するために保守派の強力な圧力団体による選挙運動やロビー活動が活発に行われている。保守派の圧力団体の意向は大統領や連邦議員も無視することはできず、保守派の圧力団体は米国政治の意思決定過程で猛威を振るっている。米国のすべての連邦議員は保守派の団体から連邦議会での投票行動をすべて点数付けされており、評価が一定点数以下の連邦議員は共和党議員であっても保守派の圧力団体からの支援が得られないどころか、彼らによる落選キャンペーンの対象となることすらある。
他方、共和党内で保守派と対立する主流派は、保守派ほどにイデオロギー的な傾向を示すことはなく、共和党員でありながら連邦議会における実際の政治行動・投票行動で民主党と同様の主張を行うことも少なくない穏健派だ。主流派には08年の共和党大統領候補者であったジョン・マケイン上院議員やブッシュ一族などの有力な政治家が属している。これらの主流派の政治家は保守派からは「名ばかり共和党員」と呼ばれており、民主党の政治家と同様に信用できない人々とみなされている。そのため、両派は同一政党に所属しながらも大統領選挙や連邦議会議員選挙で共和党からの正式な推薦獲得を巡って予備選挙で激突を繰り返している不倶戴天の敵となっている。
トランプは大統領選挙の過程の中で主流派・保守派の双方と対立関係に陥り、一時期ヒラリーに対して大きく支持率で引き離された。しかし、トランプは「ヒラリーの敵の敵は味方」という理屈によって党内保守派から支持を最終的に取りまとめたことで、豊富な選挙運動力を得ることができた。大統領選挙本選でヒラリーに対する劇的な勝利を手中におさめた原動力といえよう。
トランプの選対本部長を務めたケリーアン・コンウェイ現大統領顧問は保守派の大統領候補であったテッド・クルーズ選対の幹部であった。一方、党内主流派は最後までトランプに選挙戦の過程で抵抗したため、トランプ大統領が誕生した現在にあっても両者の間には深い溝が存在したままだ。トランプに自らの軍歴を侮辱されたマケイン上院議員はトランプ政権に対する共和党内の反対陣営の急先鋒として活動を継続している。
そのため、現在のトランプ政権の閣僚人事などは共和党保守派の影響を強く受けた状況となった。トランプ政権の基盤は共和党内の派閥の片翼によって支えられた状況となっており、共和党が過半数を得ているにもかかわらず盤石とは程遠い状態で、保守派への依存が強い。