ツイートも減税ももはや効かない
では、トランプが動かすアメリカでこれから何が起こるのか考えてみよう。
トランプは海外に渡った仕事をアメリカに戻すと言っているが、どれだけツイートをしても減税をしても戻ってこない。トランプの考えはクレイジーである。例えば石炭業で雇用される人が以前より少なくなったのは、石炭をあまり使わなくなったからだ。しかも、現在使っている石炭は以前のように地下を掘り起こして採取するのではなく、山の頂上を削って採取している。だから、以前よりも人が少なくて済む。
製造業に人が少なくなった理由は生産性が上がり、以前ほど人を必要としなくなったからだ。以前と同じ量を生産するのに、はるかに人が少なくて済むようになっているのだ。
保護主義の手法で貿易黒字を生み出し、国内の雇用を増やそうとするトランプは、アメリカ経済が貿易赤字によって成長が阻害されているという考えを持っているように見受けられるが、それは、3、4年前ならある程度当たっていた。でも現在は違う。
いまアメリカ経済は雇用統計の数値もよく完全雇用のレベルに入っている。貿易赤字を縮小すれば何百という新しい雇用を生み出せるという考え方は、これからは通用しない。あるセクターで新しく増えた職がほかのセクターでなくなるだけなのだ。
格差の拡大も問題になっているが、トランプの政策によって、格差はさらに広がる。まずトランプの税制は富裕層に対する大規模減税となるが、多くの人にとっては増税になる。金融緩和はお金持ちにとっては潤うが、中間層には恩恵がない。社会プログラムの多くが大幅にカットされるようだが、それらは主に貧困層用のものであった。3000万人から健康保険を取り上げるということが起こりそうだが、対象となるのは決して裕福な層の人ではないのだ。
トランプが掲げる減税と規制緩和は政治的には両立するが、時間が経過するとマイナス面が明らかになってくる。すぐには起こらないが、将来金融危機が起こる素地ができてしまうだろう。さらに財政赤字が大きくなるとドルが強くなり、貿易赤字はさらに大きくなるだろう。
トランプが掲げる税制には、レーガン政権のそれとの類似点がある。違いはレーガンの場合、政府の債務が低いレベルから政権がスタートしているが、トランプははるかに高いレベルからスタートしていることだ。
レーガンの政策はドル高につながり、アメリカはレーガン時代までは大きな貿易赤字を抱えたことがなかった。トランプの政策もこのまま実行すると、どんどん貿易赤字が膨らむだろう。