他人や周囲に操縦されないための理論武装
タネを明かしてしまうと、実は本当の実験の参加者はこの1人だけで、先に答えた5人はすべてダミーの協力者である。もちろん答えはCであり、疑問の余地はない。にもかかわらず、ほかの人たちが間違った答えを言うとき、人はどれだけ同調してしまうのかを確かめる実験だった。
一見、誰もが正しく「C」と答えそうに思える。しかし結果は全く違った。参加者の75%は、少なくとも1回は周囲の言葉に同調してしまった。実際は正しい答えがわかっていたとしても、グループの意見に流されてしまうのである。
これだけを見ると、不合理な行動のように見える。しかし逆に言えば、「人と同じでいたい」「人のまねをしたい」という人間の根源的な欲求はそれだけ強力なのだ。明らかに間違っているとわかっていても、人と同じでないと不安になってしまうのである。
会議の場でも、こんな経験はないだろうか。だれかが言った、何気ない一言に支配され、なんだか今ひとつと思われる判断がされようとしている。しかし、周囲も上司もなんとなく賛成しているように見えるし、今さら口を挟むのもなんだかはばかられる……。
このとき、「まねをする」という性質の負の影響が存在している。勇気を出して、一言異議を申し立ててみると、案外それほどみんなが賛成しているわけでもないことがわかり、よりよい集団での意思決定ができるかもしれない。
「社会的影響力」で人生を豊かにしよう
人は意識的・無意識的に、相互に影響を与えあっている。
無意識のうちに相手のまねをしていることもあれば(好意の表れかもしれない)、意図的に相手をまねることで、相手に好かれようとすることもできる。
もちろん逆もしかり。相手の仕草から、知らないうちに相手に好意を抱くこともあり得る。こういった人との間の社会的影響力に左右されていることに、我々はなかなか気づきにくい。つい「自分だけは関係ない」と思ってしまうが、逃れられる人は存在しないのだ。
だが、このメカニズムを知っていれば、社会的影響力を味方につけることもできる。交渉でまねをする例とは逆に、相手からの社会的影響力に左右されずに判断や意見形成を行うこともできるのである。
一つの方法が、「影響を受ける場」を形成するまえに、意見や判断を行うことだ。会議で一番はじめに発言してもいいし、無記名であらかじめ意見を書いておいてもらう、ということもできる。
また、集団が小さい方が、同調への圧力は小さくなる。もし、いつもの会議で発言が少なかったり、決まった人しか発言しなかったりという不満があれば、会議を細分化し、小さなグループで話し合わせるといいだろう。