必ずロッテを正常化できると思っている
――日本ロッテHDはどうなっていってしまうのでしょうか。
代表取締役が起訴されたわけですから通常なら辞任すべきでしょうし、健全な取締役会であれば、辞任を求めるということなんでしょうが、それはありませんでした。しかし、日本の企業というのは大きな社会的責任が求められます。特に、日本ロッテの本業である製菓・冷菓は食べ物ですから、安全安心が最重要視されています。
社員は経営者の背中を見て仕事をします。万が一にも原料の消費期限が切れていたりすれば、大きな社会的な制裁を受けることになる。本業に理解がなく、弟のような短期的成果ばかりを重視する仕事の仕方では大きな問題につながりはしないかと心配です。今は幸い、日本ロッテの財産である人材が支えているけれども、例えば、工場長が成績をよくするために無理をしたり、人件費を安くしようと人を極端に減らしたときに何かあったらどうするのか。また、金融出身者で固められた今の体制では、人をすぐ変えようとするのだけれども、メーカーの人間はこの部署、このラインはこの人間がいないと動かないということがよくあることなんですよ。そうした要の人間を大事にしなければならない。
工場長をさせるにも最初は生産技術の責任者、次は管理部部長、次は小さい工場の工場長、そして次は中ぐらいの工場長をさせるというように段階を追って育てていくものなんですが、「こいつは目端がきくからこいつを工場長にしろ」なんてことを平気で言ってくる。しかし、全然経験のない人が工場長になると、トラブルがあったときには対応できません。ロッテの大きな工場は社員とパートの方で1000人規模になる。それだけの人間を統率するとしたら、相当の経験がなければできません。
――日本は賞味期限問題など品質保証の問題は非常に重要です。ときには会社の存亡にかかわりますからね。
しっかりとした経験がなくては、品質のトラブルが起こった場合に判断を間違えてしまったら、食品メーカーとして責任を取れるのか。また、メーカー経営を知らない現経営陣の悪い癖で、何かあるとすぐに犯人捜しをするのです。この商品が売れなかったのは誰のせいかと。宣伝が悪いのか、デザインが悪いのか、工場か、研究か、犯人を突き止めようとするのです。それで始末書を書かせるのです。そういうことをやっていたらメーカーというのは伸びないのです。良い商品をつくっても激しい競争環境で売れないこともあるのです。そこで犯人捜しをするのではなく、ロッテの企業理念にも入っていますがオリジナルなものを大事にする、失敗しても常に新しいものにチャレンジして新しいカテゴリーを切り開き、売り上げを伸ばしていくことが大切なんですよ。
――食品業界は今、少子高齢化の中で非常に厳しい経営環境になっていますね。
特に製菓は国内では少子化の影響を直接受けます。ところが、ロッテは日本でこそ売り上げ一位ですが、世界的なシェアで見ていけばせいぜい10位に入る程度。逆に言えば、まだまだ伸びる余地がある。だからこそ、自社ブランドを強化して、世界に打って出てより大きな成長を追求していこうとしていた。そうした矢先に、今回の経営権問題が起きた。世界的な業界秩序を塗り替えている中で、社内で混乱していていいのか。本当に残念です。
――今後はどうなりますか。
ロッテホールディングスは特殊な株主構成で、役員が株主になっている関係会社や、役員持株会・従業員持株会といった株主を現経営陣が力で抑え込もうとすれば、残念ながら支配できてしまう構造になっています。従って、これを覆すのは容易ではありません。しかし、容易ではないからといって、現状を放置することはできません。
今のやり方に不安を感じている社員も大勢います。消費者はもちろん、お取引先にも大変心配をおかけしている状況だと思います。支持してくれている大勢の人たちがいますので、必ずロッテを正常化できると思っていますし、絶対にやり遂げなければならないと考えています。