ノーネクタイで腕まくりをする効果

行動心理学的な考え方として興味深いのは、シンガタ クリエイティブ・ディレクター 佐々木 宏氏への言葉です。「広告業界の常識としてありえない」と言った佐々木さんに対して、「発想が古いな」と一蹴する。人間には都合の悪い情報を無視しようとする「選択的接触」という心理傾向があります。ビジネスの場でも、経験の豊富な人ほど大胆な決断ができません。孫さんは広告業界について無知だったこともあり、「選択的接触」にとらわれず、革新的な一手が打てました。

孫さんは部下に対して厳しい言葉をぶつけることが多いようにも見えますが、気遣いも忘れません。栄誉が第三者にも公表されることで、褒められた人の嬉しさは倍増します。日本人は評価をこっそり伝えることが美徳と考えがちですが、その一方で皆から認められたいという気持ちは誰しも持っているものです。

効果的に話を聞いてもらうには、言葉の選択だけでなく、雰囲気づくりも重要です。その意味でも孫さんは得しています。顔立ちは、丸顔で福々しいので、厳しい言葉でも柔らかい印象になります。反対に、角張っていたりエラが張っていたりする顔の人は、言葉の内容以上に萎縮させてしまう。

カリスマをもつトップが相手を萎縮させてしまうと、相手は何も言えなくなる。たとえば孫さんにはノーネクタイの印象がありますが、これは親しみを感じさせるうえで効果的です。心理学的には、肌の露出が増えれば増えるほど、相手に心を開いているというアピールになる。部下をリラックスさせたいときには、上着を脱いだり、腕まくりをしたりするのがおすすめです。

孫さんは心理学の手法も身につけた卓越したリーダーですが、同じように振る舞ったからといって、誰もが同様の成果を出せるとは限りません。人間の能力には先天的な素質による違いがあるからです。