最近は麻布あたりを散歩していて、意外な場所から垣間見える東京タワーの景色が好きだ。裏道を歩きつつお寺の脇などから見えるベストショットを発見するのも楽しい。
いまでこそ東京タワーはお洒落なスポットとして人気だが、10年ほど前はアナクロなイメージだった。観光名所というものは、できて20~30年くらいの中途半端な時期は、軽んじられがちなものである。ところがそれを過ぎると、時の積み重ねを経て成熟みを帯びてくる。今の東京タワーがまさにそれだ。
先日、久しぶりに夜の東京タワーに上ってみた。高い建物が増えたが、ビルの灯りに取り囲まれた感じも悪くない。
東京タワーの魅力は、構造建築の父と呼ばれた早大名誉教授の内藤多仲博士の設計による、あの鉄骨で組まれた形状にある。シースルーエレベーターで昇っていくときの、まるで工事現場に入っていくようなスリル。これはほかの高層ビルでは味わえない。しかも鉄骨という建材を用いていながら、あのオレンジ色のペイントのおかげで温かみがある。また、昔は東京タワーのミニチュア版のような、四角錐型の電波塔を町のあちこちで見かけた。あの形もなつかしさを感じさせるのかもしれない。1958年、高度経済成長の幕開けの年に生まれた東京タワー。日本が右肩上がりの成長を始めたころのシンボルでもあり、その巨大な形状自体がのびゆく時代を見事に表現している。当時を知っている人もそうでない人も、上ってみると元気が出る場所だと思う。