聞いたことがある単語を切り出して覚える

三宅義和・イーオン社長

【三宅】小さいお子さん、とりわけ赤ちゃんを対象に調査をするのは、なかなか大変ですよね。泣き叫ぶ子もいるでしょうし、走り回る子もいて調査にならないのではないですか。実際、どのように研究を進められたのか興味があります。

【佐藤】最初はもう泣き通しです。一番小さいお子さんを扱った場合などは、あやすほうにエネルギーを使ってしまいます(笑)。研究の方法ですが、人間の会話には流れがあります。例えば、「おなか、空いた?」と単語で区切って発音する人はいなくて、「おなかが空いたの?」。英語では「Are you hungry?」「You are hungry, right?」と。このように文にして話しかけます。お母さんがお子さんに「You are hungry」「Are you hungry?」と問いかけると、「hungry」という単語が共通して聞こえ、そして自分の空腹と重ね合わせて「あっ、hungryって、おなかが空いたという意味なんだ」と子どもは理解していくわけです。つまり、聞いたことのある単語を流れる文の中から切り出して自分のものにしていくのです。

では、「それって何歳ぐらいからはじまるんだろうか」という調査をしたわけです。「赤ちゃんラボ」に来ていただいたのは、5カ月とか7カ月とか9カ月とか、もうまさしく泣くのが仕事みたいな赤ちゃん。その子たちに、単語を30秒間、聞かせます。そして「どんな単語が聞き取りやすくて、どんな単語は聞き取りにくいのだろうか」と分析していったわけです。

例えば「なすび、なすび、なすび」を30秒間。当然、すぐに飽きてしまう子もいるわけです。何とか無事に終えると、その「なすび」という学習した単語と、学習していない「さくら」っていう単語と同じ文の中に入れて「お母さんは、なすびの花が大好きです。お母さんはさくらの花が大好きです」といった文を30秒間聞かせた時に、前もって学習した単語が入っている文と入っていない文をどのぐらい聞き分けることができるか確かめます。そのようにして、その子が学習できたかどうかを判断するわけです。その差を比べることで、差こそあっても学習ができていることがわかりました。

ただ、160人、170人ぐらい来ていただいても、有効なデータが取れるのは60~70例程度でした。というのも、最初の30秒の間に泣き出してしまい、なだめても「ウギャー」ってどんどんエスカレートします。もう、なんかうちの研究室からは常に赤ちゃんの泣き声がして、誰かがいじめているのではないかと誤解されるんじゃないかと思ったぐらいでした(笑)。

それでも、やがて「はい。調査をするんだよ。しっかり聞いてね。可愛いね」って本当に心を込めて言うと、赤ちゃんにそれが伝わって、ニコッとするんですよ。そうしたら、今度は普通に接して「はい、行くよ」という具合に進めていきます。「はい、次、はい、次」という感じですね。すると、けっこう赤ちゃんも頑張ってくれ研究も徐々に進んでいきました。