運用損を抱え込んでしまった本当の理由
この自動的・強制的なリバランスが、その資産の評価額の上昇によって起こったものであれば、評価益を実現益として換金することになるため、年金基金にとってはプラスだ。今回の改革以前の比率に則って運用すれば、2013年から2015年までの国内株式市場が上昇するステージでは自動的に実現益を確保でき、株価が下落して比率が下限をヒットする昨今のような状況では、再度安い価格で国内株式を購入することもできる。機械的に利食い、回転売買が可能なため、運用効率を上げることが出来たわけだ。
ところが、直近の見直しでは国内債券35%±10%、国内株式25%±9%、外国債券15%±4%、外国株式25%±8%へと大幅に変更された。
そのため、本来利益が確定できたステージで収益を懐に入れないまま、更に高値での買い増しを余儀なくさせられたことになる。
GPIF改革で日本株の比率が増えたがゆえに、途中リバランスによる巨額の売りが出ずに買いが継続するなら、自らが市場に流し込む巨額の資金フローで株価は上がりやすくなる。しかし、そのフローによる株式市場全体の上昇は投機に近い。しょせん一時的なものであり、余計にマメな利食い売りが必要なうえ、大幅な下落局面に転じると、損失が膨らむ状態となってしまう。
再度株価が上昇すれば評価益は回復するものの、前述の通り収益を得るチャンスをみすみす逃しているという点で効率が悪く、そもそも銘柄選定が適当だったのか(市場全体に売り圧力がかかっても、個別の企業価値を反映してパフォーマンスを維持できるのが理想)という疑問も残る。あるいは株価を引き上げるべく再度ポートフォリオの見直しに着手すれば、いつまでたっても利食い売りができない等々、当初に決めた運用ルールを途中で変更する、あるいはそもそものルール設定が曖昧だと、実際の運用で弊害が出る。
勿論、運用ルールは一切変更するなとは言わないが、リスクのある資産を増やすのであれば、少なくとも目先の相場の値上がりを期待してなどという短絡的な発想は禁物で、年金給付を賄うとの本来の目的に沿った、運用益を着実に実現益として手に入れる、徹底した投資戦略に則ったルール・メークが必要だ。そうした戦略が果たして今回のポートフォリオ変更にあったのだろうか?