これまで為替リスクヘッジをしてこなかった

GPIFは国内株同様に、リスク資産である外国株の保有額を大幅に増やした。外国株は外貨資産であり、為替の変動によってその資産価値は上下する以上、リスクヘッジを行うのはごく自然なことと思われる。にも関わらず、GPIFはこれまでに為替リスクのヘッジ(回避策)をほとんどしてない。

少し詳しく見ていこう。アベノミクスが2012年12月にスタートし、その後約2年半は外国株式そのものが上昇。併せて異次元緩和ほか政府主導の円安志向で為替相場は円安に振れた。これはGPIFに対して外国株のリバランス(資産価額・比率アップ→売り)を迫る圧力として働いたが、13年6月と14年10月の改革で外国株の保有価額・比率を大きく拡げたことで、その圧力は薄まった。

これが為替市場に大きな影響を及ぼした模様だ。2014年10月中旬から12月までのわずか1カ月半の間に1ドル106円台から121円台ヘという急激な円安が進んだが、これは、GPIFの持つ外国株という大量のドル資産の売り圧力がなくなったことが背景にあると推測できる。この辺りのスケール感が民間の機関投資家と違うところだが、その後も2015年年央にかけて円安要因――米国経済の堅調さ、原油価格の急落から日米物価上昇率が一時的に逆転など――が多かったのは確かだ。

だからヘッジする必要はなかった、とまでは言わぬだろうが、同年末にかけてその物価上昇率の日米逆転は解消し、そもそも2015年春先の段階で、米財務省から「中期的に1ドル102円水準が適当」といった具体的な指摘もすでに出ていた。円高に振れる可能性が見え始めていた以上、大量に保有するドル資産をそのまま放っておくのは非常にリスクが高い。

為替ヘッジをしない理由を、GPIF自身は過去に「為替ヘッジは、(相場観に基づく投資行動をしないGPIFが)円相場の騰落の見通しを立てることになるから」と説明してきた。もっとも、今後については2016年4月の段階で「為替ヘッジに挑戦していきたい」との考えを表明はしている。しかし、当初からリターンを狙ってリスクを取ると戦略的に決めた上でその姿勢を貫くならまだしも、為替が円高に振れ、損失が出た後で為替ヘッジをと言われると、場当たり感は否めない。