お客様とは? 皆で考えようと
キリンはアサヒに追い上げられて、ついついその場凌ぎの施策を繰り返した。お客様から見れば、キリンビールという会社の魅力や信頼が揺らぎ、キリンブランドの輝きがなくなっていたに違いない。そこで「お客様本位」「品質本位」の原点に立ち返り、もう一度キリンのDNAを徹底するために、「新キリン宣言」を全社員に手渡し、お客様の声を吸い上げる取り組みを始めた。
周囲からは「もう白旗を掲げたのか」という批判の声もあった。また「お客様って誰だ?」「お客様本位とはどういう行動なんだ?」といろいろな質問も出た。では、皆で考えようと議論を重ねた。それは日々の行動を見つめ直すこと。大事なのはお客様の信頼である。お客様の信頼を取り戻して、期待に応える商品をつくろうと全社員のベクトルを合わせる必要があった。次第に、「品質から見たらどっちなんだ?」「お客様だったらどっちを選ぶ?」と、「お客様本位」「品質本位」をベースに議論されるようになってきた。
情報の入手、伝達には仕組みも必要だ。例えば、お客様センターに寄せられる相談がある。そのうち8割が問い合わせで、2割がお客様からのご指摘だ。「せっかくいただいたものだから、1カ月まとめてではなく、毎日流せ」と指示した。最初は経営職(管理職)だけだったが、いまは全社員に開放し、今日のご指摘は翌日には、全社員が確認できるようにした。
私も毎日、徹底的にチェックして、重要な情報に関しては、すぐに現場にフィードバックして、「これは重要。誰々が担当し、きちんと対処しなさい」といったアドバイスをしている。
営業の情報共有システム「キリノロジー」には、各地の営業日報が飛び込んでくる。現場の販促などの成功例もIT技術が進歩したことによって“現場の知恵”が写真付きで送れる。