二極化社会でも競争力の源泉が人に宿る理由

これまでの日本の経営者の、人を基軸とした経営が、どれだけ法律など環境によって守られてきたものか、または経営者の思いによってつくられてきたものか、はたまた企業経営の長期的な合理性の判断(「人材への投資は、長期的な企業の競争力に繋がる」)に基づいてつくられてきたものかについて研究からいえることは残念ながら少ない。だが、今回の動きを見ていると、正規従業員の雇用に関する規制緩和が進んだ場合、同様のことが起こらないという保証はないと思ってしまう。


図1:非正規人材に起こったことと正規人材に起こるかもしれないこと 図2:雇い止めの実施・実施予定数

いや、おそらく起こるだろう。そうなると、いよいよ日本も本格的な雇用流動化時代に入る。これまでのようにバッファーとして非正規人材を増やすという中途半端な流動化ではなく、正社員を含めて、多くの人が企業間で移動をすることが当たり前の労働移動社会になる可能性がある。なぜならば、そのとき日本の経営における、正社員まで含めた人材という資源の位置づけが変わってしまっているからである。

こうした予想が当たるかどうかはわからない。しかし、社会の二極化は進むだろうし、それに対する一つの方策としての正規従業員の雇用に関する規制緩和というのは様々な意味で魅力的である。特に、社会的に受け入れやすいと考えられる。

ただ、経営としてこうした状況になったとき、考えておかなくてはならないのは、それでもやはり競争力の源泉は人に宿ることである。次の一手を考えるのも、その手を打つのも人である。さらには、企業の変革を実行するのも人なのである。また、企業の経営が危機的なときほど、働く人が企業に対して抱く信頼感やコミットメントが必要なのである。当たり前のことだ。

だが、同時に今後、正社員人材の入れ替えや増加、削減の柔軟性は高くなる。人材活用における短期的なコストダウンや効率化を狙うための選択肢は増えてくる。これが正規従業員の雇用に関する規制緩和が企業経営にとってもつ意味である。

結果として、人材の効率的活用と、長期的にしか便益の発生しない人材への投資をどうバランスさせるかが経営者にとって大きな課題となる。人員の削減はもう苦渋の選択ではないかもしれない。しかし、そうした選択肢に安易に依存して、労働力の調整をすることにより、企業経営にとってどういう影響があるのかを判断するという課題がある。その判断は経営の中で人材という資源をどう位置づけるかに大きく関わってくる。

日本において企業の長期的な競争力は経営者の人材観に依存しているように思う。

(平良 徹=図版作成)