研究所の総合的なパフォーマンスは、この夜間シフトのスタッフがミスをせずに仕事をこなせるかどうかにかかっていた。募集・選抜・訓練のプロセスを強化したのち、「生産性と生産高を管理するとともに、夜間スタッフの無断欠勤、高い離職率とエラー率という長年の問題を解決できるよう、変動賃金というインセンティブ・プログラムを導入した」と、かつてこの研究所の人的資源管理担当副社長を務めていたレスリー・ウェザリーは語る(現在はヴァージニア州のソサエティ・フォー・ヒューマン・リソース・マネジメントに勤務)。たとえばエラー率が一定の基準を超えたスタッフは、給与を減額された。これによって、エラー率も無断欠勤も離職率も大きく低下し、生産高も目標に達するようになった。

ウェザリーたちが導入したプログラムは、特定の人的資源ドライバー(人的資源の価値を左右する要素)と主要業績指標との強い相関関係を明らかにした。この事例は、企業が特定の人的投資と利益実績との真の因果関係を実証できる段階にどれほど近づいているかを物語るものだ。

この因果関係を実証する第1歩は、測定である。だが、最近行われたアクセンチュアの調査では、企業幹部の70%が、人的資源や訓練プログラムがイノベーションに及ぼす影響を測定したことがまったくないか、ほとんどないと答えている。また、60%近くが、これらが社員の離職率や満足度に及ぼす影響を測定したことはまったくないか、ほとんどないと答えている。

投資の優先順位は企業戦略を指針に

事業の成功に対する人的投資の影響を正確に測定するには、適切なツールが必要だ。例えば、GTE社の測定は、社員の参加意識(7つの問いからなるアンケート調査によって測定)が1%上がるごとに顧客満足度は0.5%上がることを明らかにした、とアクセンチュアの戦略的変革研究所の上級研究員ロバート・J・トマスは語る。メルク社は、訓練を受けた平均的社員の測定可能なパフォーマンスの向上を金銭価値で表示し、それによって具体的な訓練プログラムのROIを判定できるようにするツールを開発している。

いわゆるダイナミック・モデリング・フレームワークを使っている企業もある。浴槽やシステムキッチンのメーカー、アメリカン・スタンダード社は、これを導入して、2000年から行ってきた人的投資が景気後退の中で業績を伸ばすのに役立ったという直感が正しいことを確認した。このフレームワークは、同社に競争優位をもたらす要素──能力開発にかかる時間(time-to-competence)、社員の満足度、イノベーション──を向上させるためには、主要なプロセスを強化する必要があることも明らかにした。同社はこのデータを踏まえて、パフォーマンス管理プロセスとリーダーシップ開発プロセスを導入し、新製品の発売までにかかる時間を短縮した。