個人番号カードが国民の大半に普及すれば、低所得層向けの給付つき税額控除を行ったり、卒業後の所得に応じて奨学金の返済額を変動させたりといった、個人給付タイプの施策も容易になる。少子高齢化がさらに進行する未来の日本を考えると、「低コストで確実な徴税の仕組みと、やはり低コストで弾力的な、若年層や子育て世代への所得の再分配システムは不可欠でしょう」と牟田氏。「日本の社会保障や税制度をこれからどうするかという文脈の中で、マイナンバーや個人番号カードの議論を進めていきたいですね」。

今すぐにはそれほど役立たなくても、未来に備えた社会制度の転換を後押しするか。あるいは、たとえば個人給付の話が具体化するまで様子を見るか。少し悩ましい選択ではある。

▼どこまで使える? 個人番号カード

※牟田学氏の資料をもとに編集部で作成

【身分証明書】

メリット:運転免許を持たない人(高齢者、主婦、学生など)でも、写真付きの公的な身分証明書として利用できる。

疑問点:一部の金融機関や携帯電話事業者が、住基カード(写真付き)を身分証明書として認めなかった例も。健康保険証などでも身分証明は可能。

【電子署名】

メリット:国税庁のe-Tax(電子申告)等のオンライン行政サービスを利用できる。民間サービスのオンライン本人確認でも利用可能に?

疑問点:確定申告をしない人には必要ない。オンラインでの本人確認も、免許証の写真データを送ればいいなど、すでに簡易化されている。

【ログイン認証】

メリット:マイナポータルを利用し、引っ越し関連の一括手続きや自分の情報の確認などができる。民間のネットサービス等で使えば安全性が高まる。

疑問点:大半の人はそれほど引っ越さない。ネットサービスのログイン方法も、現状で特に不便はない。

【カード一枚化】

メリット:エストニアやスウェーデンのように、健康保険証、クレジットカード、キャッシュカードなどの複数の機能を一枚でこなすようになるかも。

疑問点:1枚にまとめる必要性をどこまで感じられるか。

MBRコンサルティング所長 牟田 学
1970年生まれ、中央大学法学部卒。フリーランスの電子政府コンサルタントとして、自治体や企業に公平で自由な立場からの情報提供や提言を行う。共著に『新社会基盤 マイナンバーの全貌』など。
(getty images=写真)
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